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第六章

第76話:モンスタースタンピード

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 気配だけで探っているのだが、クレイヴン城伯家のダンジョンからモンスターが溢れてしまったようだ。
 本来ならダンジョンのモンスターは非生物であるはずだ。
 非生物であるダンジョンモンスターがダンジョンの外に出るのはおかしい。
 恐らくだが、非生物を生物に変化させたのだ。

 非生物を生物に変化させるには桁外れな力が必要だ。
 そんな非常識な事ができるのは俺以外だと神だけだろう。
 神は人間を他の生物と公平に扱うといっている。
 もしダンジョンが人間のために作られたモノだとしたら、人間に都合のいい部分は元に戻されるだろう。

 元のダンジョンがどのようなモノかは分からないが、弱肉強食なのだろう。
 今までは人間側から一方的に入って狩りをしていたのだ。
 公平な弱肉強食と言うのなら、人間を狩りにモンスターがダンジョンから出てくるというのが普通だろう。
 
 さて、この状況でクレイヴン城伯家が無事かどうか。
 一旦見捨てた当主のジョージの事などどうでもいい。
 自分の利益を優先して、ダンジョン都市から戻って来ない冒険者達の事も、死んでいようが生きていようがどうでもいい。

 俺が気になっているのはミュンの事だけだ。
 心優しいミュンは、知り合いが死傷すると心を痛める。
 孤児院を見捨てて利に走った冒険者であってもだ。
 しかもミュンはダンジョン都市の冒険者ギルドに務めていたから、都市住民の中に知り合いもいる。
 
 ミュンを哀しませないためにダンジョン都市を護るという選択もあったのだが、孤児院の近くから離れるのが不安だったのだ。
 だからダンジョンモンスターがスタンピードする気配を察しても、直ぐに助けに行かなかったのだ。

 もう今さら手遅れなのだが、事実を知ったミュンに怒られないか、嫌われてしまわないか、ビクビクしてしまっている。
 俺は何時からこんなに臆病者になってしまったのだろう。
 いや、元からとても臆病者で、前世では父親に「石橋を叩いて渡るどころか石橋を叩いて壊す」とまで言われていたのだ。

 まあ、そんな性格のお陰でこの世界に転生しても無敵でいられたのだ。
 不安から石橋を叩いて壊すくらい慎重に行動したからこそ、圧倒的な力を得るまで敵を作らずに生きて来れたのだ。
 今こうして生物化した大量のダンジョンモンスターに襲われていても、鼻歌まじりに無差別狩りをする事ができている。

「マイケル、孤児院に戻ってミュンに報告してくれ。
 ダンジョンからモンスターが溢れてしまっている。
 そのモンスターが孤児院の防御結界を超えようとしている。
 絶対にモンスターを超えさせたりしないが、空に張った結界に乗られると孤児達が怖がるかもしれないとな」

「はい、報告に戻ります」

 卑怯だけど、孤児達の為にここを離れられないことと、ダンジョン都市が滅ぼされたかもしれない事を、駆けだし冒険者に伝えてもらおう。
 虚勢を張るのを止めたら、どんどん臆病で卑怯な本性が露わになってきたな。
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