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第五章

第63話:オーク三

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「よくこの集落に来てくれた、人族の旅人よ。
 わざわざ立ち寄る必要などなかっただろうに、感謝する」

 オーク族の大族長も話の分かる男だった。
 いや、話が分かるというよりも漢気があると言った方がいいだろう。
 こんな言葉を前世の女性活動家の前で言ったら、眼を三角にして噛みつかれる。
 数十年前に女学生時代に、男の愚かさを証明するために、既婚男性を誘惑したと言っていた性根の腐った女だ。

 金を使って女を買おうとする愚かな既婚男性を、幾人も誘惑したと言っていたな。
 その時に一番傷ついていたのは、その既婚男性の妻子なのだが。
 その女性活動家は自慢話をするようにテレビでペラペラと喋っていたな。
 自分の主義主張を証明して満足するために、金と性欲を満たした上に、既婚男性の妻子を傷つけるか、とても立派な女性活動家だよ、まったく。

 なんでこんな事を思いだしてしまったのだろうか。
 愚かな人間を何千何万人と殺してきたが、俺が今までやって来たことに、内心疑問を感じてしまったのだろうか。
 俺の正義感はこの世界を基準にしていないのだ。
 あくまでも前世の正義感を基準に天罰を下してきた。
 だが本当にそれが正しい事だったのだろうか。
 俺は独りよがりの考えでこの世界の人間を殺していたのだろうか。

「いや、そんな事を言われては恥じ入るばかりだ。
 同じ人族が行った行為は、とても恥ずべき行為だと思っている。
 その恥を雪ぎたいと思ったから、お節介を承知で訪ねさせてもらった」

 何をやっているんだ、今はオークとの会話に集中するんだ。
 他人と会話中に他の事を考えるなんて、失礼極まりない事だ。
 まして相手はわずかな情報から俺の真意を見抜くほどの漢だ。
 俺が他の事を考えている事を察する事くらい簡単だろう。
 そんなことになったら、俺は見下げ果てた人間だと思われてしまう。
 
「人族の限らず、生き物は自分が生き残ることが最優先なのだ。
 飢えを満たして子孫を残す事が生き物の本能なのだ。
 下手に知恵をつけた生き物が、下劣な手段をとってでも、飢えを満たし子孫を残そうとするのは、仕方のない事だ。
 人族に限らず、我らオーク族も生死の狭間に立てば誇りを捨てるかもしれない。
 もう一段進化すれば、欲望を超えた道を見つけることができるかもしれないがな」

 オーク族は本当に誇り高い生き物なのだな。
 この世界では、人族よりもオーク族やコボルト族の方が、精神文化は進化しているのかもしれないが、武力が伴わなければ人族に滅ぼされてしまうかもしれない。
 それはそれを見逃してもいいのだろうか。

 今まで俺が助けてきた被害者の人間は、正直な事を言えば、助けた後に加害人間と同じように、同じ被害者だった人間を襲う可能性もあった。
 そんな人間を助け続ける事に意味があるのだろうか。
 ミュンや孤児達は助けたいが、他の人間まで助ける必要があるのだろうか。
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