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第三章

第28話:孤児院の日々四・ミュン視点

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「ここの孤児が我が家の家宝を盗んだのです、間違いありません」

 隣の屋敷に住む陪臣騎士の夫人が一方的にまくしたてます。
 騎士に仕える従騎士と徒士が、クランの冒険者達とにらみ合っています。
 本当に悔しいですが、これが身分差というモノです。
 身分の高いモノが、一方的に下の者から奪っていくのです。
 ブルーノさんのドッペルゲンガーの指導で作った解毒薬が、私の想像していた以上の高値で売れたのをどこかから聞いたのでしょう、それを奪う心算なのです。

「うちの子達は絶対に人のモノを盗んだりしません」

 最後は負けてお金を奪われることになっても、冤罪だけは晴らさなければ、子供達の信用が失われてしまいます。
 結局は騎士という身分を笠に理不尽にお金を奪われることになっても、誇りだけは失いません。
 ブルーノさんは信用できる領主が治める街だと言われましたが、ブルーノさんだって間違える事はあるのです。

 そもそもこの街に来た当初、領主は弟に実権を奪われていたのです
 ブルーノさんの手助けがなければ、今頃領主は死んでいた事でしょう。
 それなのに家臣を野放ししてこんな事をさせるなて、身勝手で恩知らずなのが貴族の本性というモノです。
 ブルーノさんの恩を忘れて、配下を使って金を奪おうというのかもしれません。
 ブルーノさんも、ドッペルゲンガーから全て知らされていることでしょう。
 ここの領主も死ぬことがきまりましたね。

「待て、待つのだ、それ以上の無礼は絶対に許さんぞ」

 立派な服装の老士族が真っ青な顔をしてやってきました。
 あの歳で馬を駆けさせるのは結構大変でしょう。
 その後を、立派な体格の騎士がついてきます。
 よほど慌てていたのでしょうか、鎧を一部だけ装備したおかしな格好です。

「筆頭家老様、旦那様、いい所に来てくださいました。
 ここにいる孤児盗賊団の女狐を追い込んでいたところなのですよ。
 わたくし、ご領主様のために領都の大掃除をしておりましたの。
 名門セシル城伯家の領都に孤児の巣窟など相応しくありませんものね」

「黙れ慮外者が、領主様を恩知らずの恥知らずにする心算か。
 この孤児院の持ち主は、トマスの謀叛から領主様を助けてくださった大恩人なのだぞ、それを盗賊団扱いするとは、恥知らずにもほどがあるぞ」

 筆頭家老と呼ばれた老人の後ろにいた騎士が、死人のような顔色になりました。
 筆頭家老の烈火のごとき怒りに触れて、先ほどまで勝ち誇っていた騎士夫人が激しく震えだし、目を剥き出しにしています。
 セシル城伯家の領民全員が負けたと思っていたエクセター侯爵家との争いです。
 あれほど見事な逆転劇には、大きな後ろ盾があったという噂が流れています。
 その後ろ盾である大恩人が、不幸な子供達のために運営している孤児院を盗賊団扱いして、金を奪おうとしたのです。
 どんな馬鹿でも厳罰処分になるのは分かります。

「ミュン、子供達を屋敷に入れて休んでいなさい。
 お前達もここは俺に任せて屋敷の防衛に集中しろ」

 ブルーノさんのドッペルゲンガーが現れて指示をされました。
 子供達に見せたくない事があるのですね、分かりました。

「はい、はい、はい、もう大丈夫ですよ、お昼寝していたブルーノ父さんが話をしてくれますから、安心して屋敷に入りなさい、皆もお昼寝しないとブルーノ父さんのように強くなれませんよ」
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