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第二章

妖狸町中華12

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 一息ついたと思っていた。
 教団と政党が表向き謝ってきたので、少なくとも敦史君達の周囲は、静かになると思っていた。
 だがそれは大間違いだった。
 翌日から、とんでもない騒動が勃発した。

 敦史君達に謝罪した教団員が、次々と自殺していったのだ。
 全員が一斉に包丁で腹を突いて自殺を図ったのだ。
 異常事態だった。
 教団からスポンサー料と言う賄賂を貰っているマス塵は、殆ど報道しなかった。
 だがSNSを完全に統制する事はできなかった。

 多くの意見は、教団本部が自殺を強要したと言うモノだった。
 教団員以外の真っ当な人間は、教団を危険視した。
 教団員に恐怖を感じ、避けるようになった。
 公職から追放すべきと言う意見まで出てきた。
 教団と政党は火消しに躍起になった。

 偏重報道を繰り返すマス塵に対する世論が、著しく厳しくなった。
 特に公共の電波を入札する事なく独占しているテレビ局には厳しかった。
 俺はそれを好機と捕らえ、莫大な資金を投入してテレビ局と総務省を訴えた。
 総務省に対して、公平公正であるはずの公共電波を、特定のテレビ局だけが入札もせずに利権を得ている事を、独占禁止法違反として訴えた。

 しかもテレビ局はその権利を不当に利用し、公平公正な報道を行っていない。
 芸能事務所に配慮して、独立した芸能人を二年間使わない。
 特定の芸能事務所を退所した人間を排除する。
 特定の芸能事務所に配慮し、若い男性アイドルを使わない。
 SNSを使って懸賞金をかけて、テレビ局と総務省を訴える証拠を集めた。

 これを通じて公共の電波を入札制にできれば、使用料が三兆円増えると思う。
 それと多くの教団員が棄教するだろう。
 もしくは教えを守りつつ、本部から離脱するだろう。
 そうなれば集票力が激減し、教団の走狗である政党も力を失う。
 何より集票力を失ったら、与党第一党も政党を切り捨てる事ができる。

 今迄できなかった教団指導者を国会喚問することも可能だ。
 政教分離違反と言う、重大な憲法違反だ!
 恐らく死んでいるだろう指導者の死を隠蔽し、聖者にしようとした罪もある。
 俺が日本に永住し、公平で安全な生活を手に入れようと思うと、この好機を生かして、教団と政党を徹底的に叩かないといけない!

 だが、どうしても気になることがある。
 敦史君達をつけ回した教団員を謝らす事に拘ったお母さん達の表情だ。
 あの酷薄な表情が忘れられない。
 そして自殺しているのが、あの時謝りに来た人間だけだと言う事だ。
 実際に敦史君達に恐怖を与えたのはあいつらだけじゃない!
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