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第二章

妖狸町中華4

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「「お母さん、親父さん、ただいま!」」

「「「おかえりなさい」」」

「おう!
 お帰り!」

 勝手口から店に入って直ぐに、敦史君と幸次君が小学校から帰って来た。
 マス塵の邪魔が無くなったので、二人とも堂々と店に来る事ができる。
 お母さんと光男君と花子ちゃんが元気に迎えている。
 親父さんもうれしそうだ。
 俺も含めた常連客も顔が緩んでいる。

 マス塵騒動以降、二時間以上行列が並ぶようになってしまった。
 だが以前からの常連客は別扱いだ。
 子供達と同じように勝手口から入り、今迄使っていなかった二階で食べるのだ。
 お母さんもこんな繁盛は一時的なモノだと考えていて、後々の事を考えて、昔からのお客さんを大切にしているのだ。

 まあ安くて美味くて早い大衆町中華屋さんだから、繁盛するのが当然だ。
 だが、遠くから電車賃を使って来る店ではない。
 店の方も、年に一度二度来るような客を経営のあてにはできない。
 店が大切にすべきなのは、毎日食べに来てくれるお客さん。
 週に一度や二度は来てくれるお客さんなのだ。

 今行列を作っている人達は、一度来てSNSに投稿すれば満足してしまう。
 そんなお客さんに振り回されていては、長く店を続ける事などできない。
 大切なのは地元の根差した飲食店である事。
 大将と女将さんは、祖先からそうやって店を維持してきたのだ。
 これからもそのやり方を変えることはないだろう。

「おい!
 どうなっているんだ!
 後から来た客が勝手口から入っているじゃないか!
 この店は客を蔑ろにするのか!」

 普段から人様に迷惑をかけるような人間が喚いている。
 店には客を選ぶ権利がある。
 だからこそ予約制や一見さんお断りという事が成り立つのだ。
 この店は、今迄からの地元常連を二階でもてなし、新規のお客さんを一階でもてなしている。

「どけこら!
 俺が文句言ってやる。
 おら!
 どけこら!」

 大人しく順番を待っている人達を押しのけているようだ。
 脅し付けて、自分達こそ順番を守らないつもりのようだ。
 このままでは敦史君達が嫌な思いをするかもしれない。
 ちょっと教育してやろう。
 
「行くぞ」

「大丈夫だよ。
 丁度英二が来ているから、あの子に話をさせるよ」

 英二さんと言う人に会うのは初めてだ。
 恐らく忙しいから手伝いを呼んだのだろう。
 親父さんの子供達は、夜の営業で全員と会ったことがある。
 地域の知り合いか、甥っ子あたりだろう。
 荒事でケガでもしたら、料理が作れなくなってしまう。

「分かった。
 でも心配だから、見守るくらいはさせてくれ」
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