上 下
16 / 42
第一章

誘拐15

しおりを挟む
 誘拐犯が本来狙っていたのは、山田んさんと言う人の子供だった。
 俺達四人は山田さんの豪邸に入れてもらった。
 日本にしては広大な庭があり、プールまで作られている、白亜の豪邸だった。
 刑事さんは俺達を山田さんの家にあげたくないようだったが、山田さんが強く希望してくれたのだ。

 山田さんが非情な人なら、関係ないと警察に協力しなかっただろう。
 例え捜査に協力したとしても、普通は五億円もの大金を用意しない。
 今後も協力を頼むのなら、警察も山田さんの要望は無視できない。
 それに一度で人質を返してくれるとは限らない。
 万が一人質救出に失敗したら、再度の身代金請求があるかもしれない。

 その時には俺の用意した五億円が必要になる。
 だから現場の刑事の判断で家に入れてくれた。
 建前上俺は山田さんの相談役で、絶対に側にいて欲しい人間だそうだ。
 弁慶達も護衛として側から離せない存在だそうだ。
 現場の刑事さんが本部に対して用意した言い訳だ。

 俺達は誘拐犯からの連絡が来るまで、色々と話した。
 山田さんは健作という名前で、手広く商売しているそうだ。
 IT関連の仕事をしているそうだが、通販にも手を出しているそうだ。
 だから名声を得る事ができれば、売り上げにも直結するという。

 そんな話をしていたら、刑事さんが苦々しい顔つきになった。
 刑事さんは誘拐事件を金儲けに利用するのかと苛立ったようだ。
 だがそれは悪意のある受け止め方だと思う。
 さっきも言ったが、口にしなけれればよかった事だ。
 それを口にすると言うのは、今後の誘拐事件を考えての事だろう。

 山田さんはこれから誘拐事件が増えると考えているのだ。
 それと共に、誘拐する子を間違える愚かな誘拐犯が出るとも考えている。
 ここで自分が身代金を建て替える事を大々的に宣伝する事で、後に続く事件でも身代金を建て替えるしかない世論を醸造する心算だろう。

 本当に漢気のある人だ。

 それと、子供さんが間違って誘拐されたのも、自分の子供を普通に市民公園で遊ばせていたからだ。
 山田さんは自分の子供に普通の感覚を養いたかったそうだ。
 その為には、金持ちだけの中で育てたくないと、公立の小学校に通わせていたそうだ。

 だが今は反省していると言って、責任を感じていた。
 ちゃんと護衛をつけて私立の学校に通わせていれば、幸次君が間違って誘拐される事もなかったと言うのだ。
 確かにその通りだが、悪いのは誘拐犯であった山田さんではない。

 そんな風に話していると、遂に誘拐犯から連絡が入った!
 
しおりを挟む

処理中です...