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第三章

第111話:落城

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 城どころか都市の中にも入れず、アイルは焦っていた。
 何時ロイドに見つかってしまうか不安でもあった。
 亡き主君とアセリカ姫の仇討をできずに死ぬのだけは嫌だった。
 刺し違えても憎きロイドを殺したいと心から願っていた。
 だから焦る心を必死で抑え、隠忍自重していた。

 アイルが自重できなくなるギリギリ限界の状態の時。
 なんに前触れもなく都市の城門が開かれた。
 開かれた城門からは溢れんばかりの人々が飛び出してきた。
 全員が泣き叫びながら争って逃げていく。
 その姿はあまりにもあさましいモノだった。

 アイルは開かれた城門から直ぐに都市内部に入り込みたかった。
 だが無理に入ろうとすると逃げる人々に踏みつぶされてしまう。
 歴戦のアイルが飛び込めないくらいの勢いだった。
 パニックとしか表現のしようがない状態だった。
 倒れてしまう者がいたら確実に踏み殺されてしまう。
 少しして本当に踏みつぶされる初老の男がいた。

「もう終わりだ、リカルド王太子が攻め込んでくるぞ」
「巻き添えになるのはごめんだ」
「ロイドの所為だ、全部ロイドが悪いんだ」

 逃げる人々の中には鎧兜を装備した兵士もいた。
 どう考えても敗走としか言いようのない状態だった。
 それも指揮官の統制を失った全面敗走だ。
 中で異常事態が起こっているのは明らかだった。
 逃げる人間の言葉からロイドに何かあったとしか思えなかった。

 アイルは歴戦の指揮官としての経験を生かした。
 落城した時に総大将がとる行動を考えた。
 ロイドの下劣な性格を知るモノとして行動を予測した。
 どう考えても金目のモノを持って隠し通路から逃げるとしか思えなかった。
 今から城内に向かっても逃げられた後になると考えた。

「この城の逃亡路は分かっているのか」

 アイルは密偵に確認してみた。

「確実ではありませんが、昔の情報は分かっています。
 以前落城した時には城の本丸から北に向かう地下通路を使っています。
 地下通路は川の近くの空井戸に通じています。
 そこから川舟を使って川向こうの森に逃げ込み追手を振り切るようです」

 あのロイドが以前使われて知れ渡っている地下通路を使うとは思えない。
 多分その場には影武者を送り、自分は反対側から逃げる心算だろう。
 だが今のこの状況で影武者を務めてくれる者がいるかどうかだ。

「アイル殿。
 ロイドは多くの王妃や王女、夫人や令嬢を籠絡しています。
 その者達を囮に使う可能性があります」

 密偵達の話を聞いてアイルは決断した。

「半数は空井戸の方に行け。
 ロイドを見つけたら花火を打ち上げろ。
 半数は俺と一緒に反対側でロイドを待ち受ける」

「「「「「は」」」」」
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