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第三章

第98話:逃亡・元勇者パーティーのフルス視点。

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「「「「全軍出陣」」」」

「「「「「おう」」」」」

 信じられないほど覇気のない小さな声だ。
 誰も勝てるなんて信じていない。
 いつどうやって進軍から逃げ出すかだけを考えている。
 まあそれも仕方がない事だ。
 戦う相手があのリカルドなのだからな。

「おい、フルス、本気なんだな」

 盾役のガルスが煮え切らない表情をして聞き返してきやがる。
 何度同じことを聞けば気がすむんだ、この優柔不断は。
 女獣人のヒルドと攻撃魔術士のラルガも呆れている。
 煮え切らない性格は生まれ持ったものなのか、それとも盾役をやって来たから変わり身が遅くなっているのか、まあどちらでもいい。
 グズグズするなら見捨てて別々の道を行くだけだ。

「そんなにロイドと心中したいのなら好きにすればいい。
 ロイドの命令通りリカルドと戦えや」

「いや、そうじゃない、そんなつもりで言ったんじゃない」

 言い訳を聞いている余裕などない。
 南部同盟各国が寄こしてきた雑兵が五万。
 雑兵とはよく言ったもので、正規の訓練を受けた者などほとんどいない。
 南部同盟各国は正規兵を温存して自国に残した。
 送って来たのは犯罪者か食うや食わずの貧民だ。
 とても歴戦のリカルド軍には勝てない。

「まあいい、好きにしな、俺の知った事じゃねえよ」

 ヒルドとラルガも割り切った表情をしている。
 ガルスがどう対応しようが雑兵を奪ってしまえばいい。
 盾役のガルスは守りは固いが攻撃力も敏捷性も大したことがない。
 殺せなくても殺される心配はない。
 俺達は雑兵共を率い弱肉強食の獣人島、ロンセイ島に渡る。

 ヒルドの故郷ロンセイ島で確固たる立場を築くことができれば、まだ生き延びられる可能性がある。
 短いとはいえ海を渡るから損害は多くなるだろうが、リカルドと戦うよりはまだ生き延びられる可能性がある。

 雑兵共からは大量の逃亡者がでるだろう。
 だが食糧だけはあるから、それを目当てについてくるモノはいるだろう。
 半数でもついて来たら上々だ。
 海を渡る時に俺様の代わりに魔魚や魔獣の餌食になってくれればいい。

 本当はロイドの糞野郎を殺して南部同盟の兵権を奪えればいいんだが、残念だがあいつほど人を騙す才能には恵まれていない。
 特に女を誑かす才能は天性のモノがある。
 あれだけ酷い事を繰り返しているのに、エルナはまだ側から離れない。
 南部連合を結成できたのも、王妃や王女を誑かした結果だ。
 ヒルドも繁殖期が限られる獣人でなければどうなっていた事か。

 くそ、リカルドがあれ程の英雄になるんだったら、さっさと告げ口したのに。
 単なる憶病者だと思っていたのによ。
 今さら遅いのは分かっているが、あの時うまく変わり身できていたら、今頃騎士団長や大領主も夢じゃなかったんだ。
 今度こそ見切り時を誤まらず、うまく変わり身してみせる。
 とは言ってもリカルドに降伏しても許されるはずがない。
 獣人の島を占領して王に成ってやる。
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