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第二章

第65話:自省・リカルド王太子視点

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 私は、汚い人間になってしまった。
 もう理想のために生きることができなくなってしまった。
 私が人間不信になったという噂も耳に入ってくる。
 違うと言えない自分がいるのは間違いない。
 ずっと私を支えてくれていた側近よりも、妻子の方が大切になっている。
 だがその側近のためなら、国民を見捨ててもいいとも思っている。
 側近のためなら見捨てる気の国民なのに、国民を護るためなら大陸の民を斬り捨てる気でいるのだから、自分で自分を笑ってしまう。

 だが、それでも、理想を全て捨ててしまったわけではない。
 全て護ることができるのなら、護りたいという想いも確かにある。
 完全に心が穢れてしまったわけではない。
 大陸の民を助けるためなら、自分の名誉を失う決断をした。
 以前の私なら、名声を得ることで民を救おうとしていた。
 力を得る前の私には、名声という力がどうしても必要だったからだ。
 だが力を得た今の私には、名声の力など不要なのだ。

「二つの魔境の守りと食糧生産に必要な最低限の人間を残して、全ての騎士団と徒士団、義勇兵団をウェルズリー領内の築城現場に送る
 中には騎士や徒士が築城に従事する事に文句をいう者がいるだろう。
 そのような者は国外追放にすると通知しておいてくれ。
 騎士や徒士であろうと、いや、騎士や徒士であるからこそ、戦場での築城技術が必要なのだ」

「は、承りました」

 長年私の側に使えてくれていた者は、もう今回の策謀に気がついているようだ。
 私が流した噂で、大陸のほとんどの国で王侯貴族と領民の間が完全に裂かれた。
 愚かな国内貴族は、私の謀略で家臣領民に殺されたが、今回の策謀で王侯貴族が国民や領民に殺されるとは限らない。
 小汚い王侯貴族ほど民の叛乱を恐れて十分な準備をしている。
 ただ多くの国で内乱が起こるのは確かだ。
 その時に必要な場所に素早く軍を送れるように、他国に無用な警戒をさせないために、ウェルズリー領内に大軍を駐屯させる築城という正当な理由をでっちあげた。

 さて、俺にできる範囲の準備は全てやったと思うが、抜けている事はないかな。
 どうしても不安がぬぐいきれない。
 大きな何かを見落としているような気がしてならない。
 前世の記憶でも、よく見落としをしていたのだ。
 今回の策謀でも、とんでもない見落としをしているかもしれない。
 ここまで自分の名声を落として準備した策謀を、自分の迂闊な見落としで失敗したくはない。

「ライラ、ローザ、私は何か大きな見落としをしていないか」

 こんな時に恥も外聞もなく頼れるのはライラとローザだけだ。
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