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第二章

第64話:流民

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 リカルド王太子の予測と対策は、大陸中に恐怖をまき散らした。
 すでに大陸の多くの国では魔王軍の遊撃部隊にすら対応できず、農村を見捨てる最悪の状況になっているのに、魔王軍主力が侵攻するというのだから。
 魔王軍遊撃部隊をギリギリ撃退している程度の、防御力の低い極小都市や小都市などひとたまりのない事は、よほどの馬鹿でなければ直ぐに分かった。

 自分の都合のよい事しか信じない者もいたが、多くの平民は危機感を持っていた。
 何とか都市に逃げ込んだ者は、日々減っていく食糧に心底怯えていた。
 その日の食事にも事欠く者は、義勇兵に志願してリカルド王太子の慈悲に頼って既にいない、今残っている者はそこそこ豊かだった者だが、もう限界だった。

 リカルド王太子はもう隊商を送って義勇兵を募集しなくなっていた。
 それがリカルド王太子の人間不信の証拠だという噂も流れていた。
 もし魔王軍主力部隊が大陸に侵攻してきたとしても、リカルド王太子は自国の防衛だけをして、他国を見捨てるだろうという噂が信じられ始めていた。
 
 そんな中でウェルズリー領と国境を接している平民が動いた。
 いや、平民だけでなく、領主軍の一部や騎士まで動いた。
 義勇兵に志願すると言って、最も近くにあるウェルズリー領の農村や都市に逃げ込んできたのだ。

 国も領主も護ってくれない平民の一団は、着の身着のまま痩せ細った身体で、ほとんど乞食と変わらない姿で、ウェルズリー領に逃げ込んできた。
 心ある領主軍将兵に護られた民は、わずかな食事を分け合いながら、それでも平民だけの一団よりは少しマシな状態で、ウェルズリー領に逃げ込んできた。

 心ある騎士に護られた一団は、領主である騎士が食糧や家財を領民のために配給していたので、比較的まともな姿でウェルズリー領に逃げ込んできた。
 領主である騎士が認めた領民挙げての志願兵応募だから、乗せられるだけの家財を馬車や荷車で持ち出しての逃げ込みだった。
 その知らせを受けたリカルド王太子の返事は……

「ふう、仕方がないな、もう国民以外は見捨てる心算だったが、自力で志願してきた者を追い出すわけにもいかんから、義勇兵と認めよう。
 だがもうこちらから義勇兵を募ってはいけない、隊商も派遣するな
 我が国の食糧にも限りがある、農地を放棄した王侯貴族の民全てを飢えから救う事など、私にも不可能なのだ。
 飢え死にする民は可哀想だが、全ては農地を捨てた王侯貴族に責任がある。
 特に我が軍の通過を認めなかった国と、洞窟通路を破壊しなかった国には、人類滅亡の重大な罪がある。
 そのような国の王侯貴族や民のために、一粒の麦も使うわけにはいかない」

 リカルド王太子は冷酷非情な宣言をしたが、それには大きな理由、策謀が仕組まれていたのだ。
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