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6話

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「オードリーが望んだ通り、顔に大ケガをしたという噂を流しておいたぞ」

 父が満面の笑みで話しかけてきます。
 全てが順調に進んでいるのでしょう。
 私のクランが魔境やダンジョンで狩ってくる獣や魔獣の素材で、ポルワース伯爵領内は空前の好景気です。
 領都には多くの商人が支店を出し、腕利きの職人が移民してきています。
 グレイスも王太子の婚約者に決まりました。
 父はこの世の春を謳歌しています。

「ありがとうございます。
 お陰様で煩わしい社交界に出席せずにすんでおります。
 ただ近隣の魔境やダンジョンの獲物が減少しております。
 遠征したいのですが、許可していただけますか?」

 困ったものです。
 即断即決してくれません。
 ここは私の望み通りするところでしょう。
 私を怒らせてしまって、私が家出したらどうするつもりなのでしょうか?
 今の私なら、たとえ顔に醜い傷があろうと、正室に望む家は多いのですよ。
 それが理解でいないのでしょうか?

「分かった!
 分かったから出て行かないでくれ!
 ただ、無茶はしないでくれ!
 無理に奥深くに入る必要などないのだぞ。
 命を失ったり、大ケガをしたりしたら、何にもならないのだぞ。
 少々獲物の数が減ろうと、長く安全に狩りを続けることが肝要なのだぞ。
 分かってくれるな?」

 ずいぶんと保守的ですね。
 ですかそれも貴族家の当主なら仕方ありません。
 家を守り次代に引き継がせるのが貴族家当主の役割ですからね。

 ですが私には関係ありません。
 私には私の望みがあります。
 よき伴侶を探し出す事が、私の最大の望みです。
 五回も婚約破棄され野垂れ死にしたのです。
 今生こそは幸せな結婚をして、可愛い我が子をこの手に抱きたいです!

 今なら家同士の都合ではなく、私は恋した相手と結婚できるのです。
 そうできるように今日まで努力してきたのです。
 適当な男で妥協するつもりはありません。
 私から見て最高の男を夫にしたいです。
 最低でも私と同等の、できれば私以上の強い男から選びたいです。

 ただ戦闘力が強いだけでなく、性根も強く正しい男でないと、一生を共にしたいとは思えません。
 ですがそのためには、男の本質を見極めなければいけません。
 そのためには、命ギリギリの状態での行動を見なければ判断できません。
 誰だって普段は自分を偽り装っているのです。
 美しく表現すれば、理想の自分であろうと、仮面を被って努力しているのです。
 ですがその努力も、命がかかった場面では仮面がはがれるのです。
 だからこれと思う男とパーティーを組んで、命懸けの狩りをするのです!
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