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54話

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「マリアム様。
 アンネ様とお子様方を暗殺しようとしております」

「証拠はあるのですか?」

「はい、戦闘侍女が連絡役を確保しました」

「では、ここに連れてきてください。
 陛下と共に尋問いたします」

 後宮の全権を預かるマリアムは、側室や愛妾として後宮入りした、虎獣人族の女達と実家を徹底的に見張らせていた。
 これは皇帝アレサンドと皇国首脳陣の許可をとり、皇国選りすぐりの斥候を投入した、重大な役目だった。
 何といっても皇国の後継者、次期皇帝に係る事だからだ。

 なかには細心の注意を払って、慌てずに時期を図っている者もいる。
 自家の血に入った皇子の能力を見てから、皇帝位を狙うか決めようと考えている、慎重派の王侯貴族もいた。
 最初から、皇子さえ生まれて、自家の血族から皇族が生まれただけで満足している貴族もいた。

 だが、やはり、なかには欲深い者がいるのだ。
 一族の多くは慎重に動こうとしていても、思わぬ幸運に舞い上がり、さらなる高みを目指して蠢動し、身に余る地位を望む馬鹿がいる。
 娘や妹や姪が側室愛妾に選ばれた事で、外戚となって皇国を牛耳れると、痴夢を見てしまった愚か者がいたのだ。

 だが、一番多かったのは、息子や娘を皇帝にしたいと思ってしまった、側室や愛妾だった。
 だが、それは、ある意味仕方のない事でもあった。
 母親は出産直後で母性が溢れているのだ。
 ホルモンがそうなっているので、しかたがない面があるのだ。

 そのような事は、長年後宮にいたマリアムはよく分かっていた。
 大公国時代、アレサンドの後継者争いで、嫌というほど味わった。
 アレサンドの武勇が突出していたことで、毒殺を謀ろうとした者が多かった。
 それを傅役だったシャノン侯爵エリック卿と共に防いでいた。

 今回も同じだった。
 今では後宮総取締で名誉大侯爵夫人となっているマリアムと、同じように栄達して皇国筆頭大臣でシャノン大侯爵家当主となっているエリック卿が防いでいた。
 
 外戚を夢見た者達は問答無用で殺された。
 だが側室や愛妾達は、アレサンドの子供を育てさせなければいけないので、処刑はされず、前科者として育児後に幽閉されることになっていた。
 処分された側室愛妾は、自暴自棄となって子供を殺そうとした者だけだった。

 問題の子供の処遇だが、皇帝候補としてはほとんど不利はなかった。
 優秀な後継者を望んでいるのは、アレサンドも皇国首脳部も同じだ。
 忠勇兼備の優秀な傅役をつけ、節度を知る乳母も配して、皇帝になれなくても公爵家当主や大公国の大公になれるように、文武の教育をする予定だ。
 だがその頃、カチュアの子供ベン皇子に重大な兆候が見られた。
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