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33話

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「民を助けてあげてください。
 侵攻する時も、民を巻き込まないようにしてください。
 お願いします、アレサンド」

 人族四カ国連合軍がセントウィン王国領に攻め込んできて、ウィントン大公領から迎撃に向かおうとするアレサンドに、カチュアがお願いする。
 表向きはお願いでしかないのだが、つがいの呪縛が一方的に作用する人族と獣人国の関係では、命令呪縛になってしまう。
 アレサンド自体は抗っているつもりでも抗えているかどうかは誰にも分からない。

 だが、そんな事は、虎獣人族の側近忠臣重臣達は、先刻承知の話だった。
 幾ら征服王建国王となったアレサンド王が相手でも、警戒しているし、盲目的に従ったりはしない。
 そもそもアレサンドはカチュアが何より大切で、セントウィン王国領ではなくウィントン大公領に常駐しており、セントウィン王国領の迎撃策は、駐留軍の将軍や戦士団長が立てていた。

 そして将軍や戦士団長は、常に人族の国を警戒していた。
 当然優秀な虎獣人族の密偵が人族の国に派遣され、綿密な報告が送られていた。
 だから四カ国連合軍が国境をわずかに侵攻した時点で、猛烈な迎撃を行った。
 その迎撃も綿密に計画されており、総指揮官や参謀、上級指揮官や中級指揮官を、暗殺部隊が最初に狙い打ちで殺すというモノだった。

 セントウィン王国領に侵攻した人族四カ国連合は、侵攻直後に敗走し、そのまま虎獣人族の軍勢が、その国の首都を目指して猛烈な勢いで進撃していた。
 途中の軍城や貴族領を無視して、ただひたすら首都を目指していた。
 それが虎獣人族が立てていた最初からの戦略だった。

 だから、アレサンドが少数の近衛精鋭の部隊を率いてセントウィン城に入った頃には、すでに大勢が決していた。
 アレサンドがする事などほとんどなかった。
 カチュアのお願いが効力を発揮する機会などなかった。
 それが幸いだったのか不幸の始まりになるのかは、誰にも分らなかった。

「陛下!
 迂闊でございますぞ!
 戦争中にこのような少人数で移動されるなど、危険極まりません。
 いえ、戦争中でなくても、陛下のお命を狙う者は幾らでもおります。
 もっと大勢の護衛をお付けください!」

「駄目だ!
 そんな事をすれば、カチュアの護りが手薄になるではないか!
 カチュアこそ危険だ。
 味方であるはずの虎獣人族からも狙われているのだ。
 絶対にカチュア護衛は減らさん」

「虎獣人族から狙われているのは陛下も同じでございます。
 油断されないでください!
 それにカチュア様は、後宮の者達が御護りしております。
 後宮におられる限り、虎獣人族であろうと人族であろうと何の心配もいりません。
 男の近衛部隊は全員陛下にお付けください」

「うぬぬぬぬぬ」
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