26 / 94
25話
しおりを挟む
「大公閣下。
戴冠の下工作が整いました。
吉日を選んで戴冠式を執り行いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「カチュアの王妃戴冠を認めなければ、私は王に戴冠せん。
カチュアのマクリンナット公爵位継承も認めよ。
何度もそう言ったはずだ」
これでもう何度目だろうか。
ウィントン大公アレサンドの股肱之臣、シャノン侯爵エリック卿や、長年大公に仕えている側近忠臣は困っていた。
リングストン王国は、前王家や貴族士族の圧政もあり、虎獣人族が支配者になろうと、公明正大な政治を行えば民は統治できた。
近隣諸国もウィントン大公国の武力を恐れ、何も言ってこない。
だが、ウィントン大公国内の有力貴族の幾人かがまだ反対していた。
アレサンドの常識外れの自制心と、カチュアの純真無垢な心を知り、当初のように暗殺や排斥までは考えなくなった。
だが、それでも、時と共にカチュアが人間の特性である悪逆非道の本能を見せるかもしれないと、常に警戒していた。
つがいであるカチュアとの結婚を認めないなどとは、獣人族である以上、有力貴族でも公式に言える事ではない。
だが、後継者の問題もある。
虎獣人族と人間のハーフが次期大公、いや、次期国王になるのは認めがたい。
そこで有力貴族達が捻り出した策が、正室は虎獣人族の貴族令嬢を迎え、カチュアは側室にするという妥協案だった。
だがそのような妥協を、アレサンドが認めるはずもない。
有力貴族達は、愚かにも誤解していた。
アレサンドが常識外れの強靭な精神力を発揮し、つがいの呪縛の囚われない行動をしているのは、国のためでも貴族士族のためではないのだ。
カチュアを幸せにしたい、カチュアの笑顔を見たいからなのだ。
アレサンドの中に、排斥する貴族の名前と顔が深く刻みつけられられた。
「大公閣下。
そろそろ妥協してくださいませんか?
カチュア様との間にお生まれになる御子の事もお考え下さい。
恐らくですが、カチュア様との御子は身体能力が劣ります。
そのような御子が大公位や王位を継承しようとすれば、必ず内乱が起こり、最悪殺されてしまわれます。
カチュア様にそのような哀しみを与えて宜しいのですか?
ここは政略結婚と割り切ってください。
もともと王侯貴族の結婚は政略でございます」
「分かっておる。
だがそれではお飾りの王妃が可哀想すぎるではないか。
政略結婚であろうと、普通は互いに愛そうと努力をする。
愛し合えないにしても、子供を作って立派な後継者にするという、同じ目標やメリットがある。
だが今回王妃になる者は、その可能性が全くないのだ。
それはあまりに可哀想すぎる」
戴冠の下工作が整いました。
吉日を選んで戴冠式を執り行いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「カチュアの王妃戴冠を認めなければ、私は王に戴冠せん。
カチュアのマクリンナット公爵位継承も認めよ。
何度もそう言ったはずだ」
これでもう何度目だろうか。
ウィントン大公アレサンドの股肱之臣、シャノン侯爵エリック卿や、長年大公に仕えている側近忠臣は困っていた。
リングストン王国は、前王家や貴族士族の圧政もあり、虎獣人族が支配者になろうと、公明正大な政治を行えば民は統治できた。
近隣諸国もウィントン大公国の武力を恐れ、何も言ってこない。
だが、ウィントン大公国内の有力貴族の幾人かがまだ反対していた。
アレサンドの常識外れの自制心と、カチュアの純真無垢な心を知り、当初のように暗殺や排斥までは考えなくなった。
だが、それでも、時と共にカチュアが人間の特性である悪逆非道の本能を見せるかもしれないと、常に警戒していた。
つがいであるカチュアとの結婚を認めないなどとは、獣人族である以上、有力貴族でも公式に言える事ではない。
だが、後継者の問題もある。
虎獣人族と人間のハーフが次期大公、いや、次期国王になるのは認めがたい。
そこで有力貴族達が捻り出した策が、正室は虎獣人族の貴族令嬢を迎え、カチュアは側室にするという妥協案だった。
だがそのような妥協を、アレサンドが認めるはずもない。
有力貴族達は、愚かにも誤解していた。
アレサンドが常識外れの強靭な精神力を発揮し、つがいの呪縛の囚われない行動をしているのは、国のためでも貴族士族のためではないのだ。
カチュアを幸せにしたい、カチュアの笑顔を見たいからなのだ。
アレサンドの中に、排斥する貴族の名前と顔が深く刻みつけられられた。
「大公閣下。
そろそろ妥協してくださいませんか?
カチュア様との間にお生まれになる御子の事もお考え下さい。
恐らくですが、カチュア様との御子は身体能力が劣ります。
そのような御子が大公位や王位を継承しようとすれば、必ず内乱が起こり、最悪殺されてしまわれます。
カチュア様にそのような哀しみを与えて宜しいのですか?
ここは政略結婚と割り切ってください。
もともと王侯貴族の結婚は政略でございます」
「分かっておる。
だがそれではお飾りの王妃が可哀想すぎるではないか。
政略結婚であろうと、普通は互いに愛そうと努力をする。
愛し合えないにしても、子供を作って立派な後継者にするという、同じ目標やメリットがある。
だが今回王妃になる者は、その可能性が全くないのだ。
それはあまりに可哀想すぎる」
12
お気に入りに追加
3,386
あなたにおすすめの小説

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?
木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。
彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。
それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。
それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。
故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。
どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。
王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる