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6話

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「まさか?
 嘘だろ!
 君なのか?
 君が私のつがいなのか?!」

 ウィントン大公アレサンドは、辛い人生を送ってきたカチュアに慰めの言葉をかけようと、玉座を立って殿上から降りてカチュアに近づいた。
 これは虎獣人族の常識からいえば特別待遇だった。
 人間が特別待遇されることに、内心腹立たしく感じる虎獣人族の廷臣もいたが、アレサンド殿下の漢気を感じて何も口にしなかった。

 だがこれが奇跡をよんだ。
 アレサンド殿下がカチュアのフェロモンを感じたのだ!
 なんと、カチュアがアレサンド殿下のつがいだったのだ!
 全貴族士族の令嬢を集め、つがいがいないか探した大儀式でも、アレサンド殿下のつがいは見つからなかった。

 獣人族がつがいを見つけられる確率は、一万分の一と言われている。
 それほどつがいを見つけられる獣人は少ないのだ。
 それだけに、獣人の世界ではつがいは何よりも優先される。
 まあ、現実問題として、本能的に抗えないというのもある。
 つがいを引き離そうとすると、猛烈な殺人衝動が起こり、最悪の結果につながる。
 陰でつがいの呪縛と言われるくらいだ。

 だからつがいが現れた場合は、既婚者を離婚させてでもつがいを夫婦にさせる。
 そうしなければ、つがいのカップルは、つがいに選ばれなかった伴侶を殺してでも添い遂げようとするのだ。
 それくらい激しい衝動だから、種族人種は無視される。
 草食獣人と肉食獣人のカップルであろうと、人間と獣人のカップルであろうと、ハーピーとマーマンのカップルであろうと、全ての獣人が祝福する建前だ。

 建前となっているのは、相手が人間であった場合が問題だからだ。
 つがいにはどうしても呪縛する側と呪縛される側ができてしまう。
 問題は、人間が臭覚を退化させしまっているので、つがいを呪縛することはあっても、つがいに呪縛されることがないのだ。
 
 ウィントン大公国の廷臣達には、いや、全貴族士族国民にとっては、絶対にあってはならない現実だった。
 自分達が心から敬愛する主君、ウィントン大公アレサンド殿下が、人間の小娘に呪縛され、言いなりになってしまうのだ。
 即座にカチュアの暗殺謀殺を決断するのは仕方がない事だった。

「動くな!
 指一本動かすな!
 カチュアに危害を加えようとしたモノは、誰であろうと許さん!
 本人だけでなく、一族一門領民に至るまで皆殺しにする!
 私のつがいに手を出す者は、一切容赦はせんぞ!」

 廷臣の考えなど、アレサンドには筒抜けだった。
 自分が思わず口にした事で、カチュアが狙われることは、言い終わる前に分かっていたので、そのまま言葉を続けて警告脅迫の言葉を続けた。
 そして、カチュアに愛の告白をしたのだ。

「カチュア。
 君は私のつがいだ。
 わが命を賭けて生涯護り抜く。
 だから結婚してくれ」
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