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第17話追放46日目の出来事

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「キャアアアアア!」
 
 王宮の下級女官が絶叫する。
 それも当然だろう。
 怒りを露にして女官を罵っていた貴族令嬢の侍女が、眼の前で見る見る老化して、ミイラになったのだから。
 女官の頭の中に、守護神様の天罰という言葉が浮かんだ。

 王宮は寂れていた。
 領地のある貴族士族は全て病気療養を理由に王宮を去った。
 下級使用人の多くも辞めて行った。
 今残っているのはどこにも行く当てがない人間だけだった。
 だから王宮は往時の百分の一の人数しかいなかった。

 だから王族へのお世話も満足にできないようになっていた。
 掃除も完全にはできず、あちらこちらに埃が落ちている。
 そんな状況だから、逃げたくても逃げられない意地悪な貴族令嬢侍女には、幾らでも下級女官を嬲り虐める理由があった。
 そんな事をするから、毎日のように下級女官が逃げていくのだが、愚かな貴族令嬢侍女はそんな事も理解できなかった。
 いや、自分の欲望さえ満たされればよかったのだ。

 多くの下級女官には、守護神様の怒りに触れた者達が一目瞭然だった。
 日に日に容貌が衰え、老人と変わらない姿になっていくのだから。
 老化を必死で隠すのが滑稽で、陰で嘲笑うのが下級女官達の楽しみになっていた。
 だが、さすがに目の前でミイラになってしまうと、楽しみだと言っていられない。
 恐怖で絶叫してしまう。

 だが、ミイラになったのは一人ではなかった。
 王宮のあちらこちらで、いや、王都内や貴族士族の領地内、なかには他国に逃亡しようとしている道中で、多くの者がミイラ化してしまった。
 いや、本当にミイラになってしまったわけではなかった。
 ミイラのように一気に老化してしまったが、それでも生きていた。

 それが月神テーベの報復だった。
 絶対に殺さない事が、テーベの怒りの深さを物語っていた。
 老化や病気による人間の苦しみにはいくつかあるのだが、そのなかでも殺して欲しいとまで哀願する病気がいくつかある。
 そのうちの一つが身体に酸素を取り入れられなくなる病気だ。

 どれほど息をしても、身体が必要としている酸素が取り入れられない。
 泳いだり激しい運動をした後の、息が苦しい状態が四六時中続く、永劫の窒息苦痛地獄に陥るのだ。
 ミイラのように見えるほど老化して、気管支や肺が極度の衰えて、どれほど激しく呼吸をしても、窒息寸前の苦痛がなくならないのだ。
 その苦しみは筆舌に尽くし難いものがある。

 この国のありとあらゆる場所で、ミイラのようになってのたうち苦しむモノが突然現れたのだ。
 それを眼にした人々の恐怖も尋常一様ではなかった。
 全ての人が清廉潔白に生きてきたわけではない。
 ほとんど全ての人が、守護神に罰を受ける心当たりがあった。
 国民の全てが恐怖にかられて国から逃げ出した。
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