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第3話追放3日目の出来事

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 王宮はとても華やいでいた。
 王太子が完治した事と、目障りな癒しの聖女を追放できた事で、王侯貴族はこれから行われる、王太子の婚約者選定に集中していた。
 特に王太子は、身分卑しい平民と結婚しなくてすんで、解放感に浸っていた。
 国王陛下の英断に感謝していた。
 激痛に苦しみ老化に涙していたアリスの事など、全く思い出さなかった。

「王太子殿下。
 次は私と踊ってくださいませ。
 なんでしたら小部屋で休んでも構いませんのよ」

 露骨な誘惑だった。
 正室など絶対に不可能な侯爵家以下の令嬢には、側室や愛妾でも十分玉の輿なのです、貴族令嬢としては恥となり、場合によったら幽閉される危険がある婚前交渉を行ってでも、王太子を誘惑しようとしていた。

「あら、それはあまりのも恥知らずではなくて。
 これ以上殿下を困らせるようなら、陛下にお話ししなければいけなくなってよ。
 それでも宜しいのかしら?」

「申し訳ありません、ネヴィア様。
 ちょっとした冗談でございます。
 もう二度といたしませんので、陛下の耳に入れるのだけはお許しください。
 この通りでございます」

 美貌で評判だった某子爵家の令嬢は、深々と頭を下げた。
 タートン王国三大公爵家の一つ、グストン公爵家令嬢ネヴィアに逆らい嫌われては、自分一人だけの事ではすまない。
 子爵家が没落させられるくらいの危険があるのだ。

「分かりましたわ。
 今回だけは許して差し上げます。
 だから二度と殿下に近づいてはいけませんよ」

「ご厚情、心から感謝いたします」

 口では許すといながら、ネヴィアに許す気はなかった。
 王太子の正妃を狙うネヴィアにとって、王太子の周りをうろつく令嬢達は、目障りな存在でしかない。
 正妃争いの主敵は、同じ三大公爵家のジャスミン嬢とジュリア嬢だが、それ以外の令嬢達にも油断は禁物だった。

 側室以下の愛妾が生んだ王子は、年長であっても王位継承権が低い庶兄として扱われるが、生まれてしまえば色々と問題になるのは明らかだった。
 正室争いに敗れた公爵家や、三大公爵家を押しのけて王国の実権を握ろうと、虎視眈々とすきをうかがっている四大将軍家がいるのだ。
 だから子爵令嬢は見せしめに修道院送りにするつもりった。

「ネヴィア!
 わたしのぉ、たのしみをぉ、じゃまするなぁ!
 やっとぉ、じゆうにぃ、なれたのだぁ」

 王太子は泥酔していた。
 三日に及ぶ舞踏会と晩餐会で、王太子としての仮面を維持できないくらい酔い、本能本性のままに食べ飲み騒いでいた。
 取り巻き達も王太子をたきつけて、一緒に乱痴気騒ぎをしていた。
 だがそれを冷たい目でいるモノがいた。
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