幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

文字の大きさ
上 下
104 / 106
蝦夷地開拓

拿捕

しおりを挟む
「コウフクシロ」
「テヲアゲロ」
「コウフクシロ」
「シロハタヲアゲロ」
 乗船前に習ったばかりのフランス語とロシア語で、オロシャ軍艦の将兵に降伏を呼び掛けた。
 オランダ海軍士官から教授受けた知識では、大砲の攻撃だけでは敵軍艦を無力化するのは難しいとの事だった。
 だから最初から、最後は敵軍艦に乗り込んで白兵戦にする予定だったのだ。
 向井将監の流れをくむ同心と水主は、戦国時代方の戦法と同じなので、勇躍してオロシャ軍艦に乗り込んでいった。
 一番の目的は、オロシャ軍艦を拿捕し、オランダから学んだ南蛮船との違いを知る事だった。
 開国し、南蛮の知識と技術を取り入れると決めた以上、それをオランダ一国に頼るのは危険だと、田沼意次を始めとする幕閣は考えていたのだ。
 特に江戸蘭学社中は、真剣にオランド語とオランダの知識を学んでいるからこそ、オランダが南蛮では二流国だと理解していたのだ。
「コウフクスル」
「ユルシテクレ」
「タスケテクレ」
 武士の基準では、臆病と言うくらい簡単に、オロシャ軍艦の将兵は降伏した。

「スベテヲハナセ」
「ナニヲハナセバイイノダ」
 平蔵は通詞を伴って尋問をしたが、ロシア語よりフランス語やラテン語の方が通じた。
 水兵は無学で、ロシア語以外は話せず、此方もロシア語が分からないので、何の情報も得ることが出来なかった。
 だが士官は、フランス語・ドイツ語・英語・ラテン語・ギリシャ語が話せるようで、片言の英語とフランス語で尋問を続けた。
 江戸蘭学社中は、今後の開国を見越して、英語とフランス語を学んでいたので、何とか会話を成立させることが出来たのだ。
 聞き出した事は全て松前福山城と江戸に送ったのだが、特に大切なことがあった。
 一つはオロシャの勘察加・西伯利亜における戦力だったが、コサックと言う騎兵が中心だが、エカチェリーナ二世という女王の命令で、オスマン帝国と戦争をしている最中だった。
 一つはエカチェリーナ二世が正当な王位継承者の夫を殺した簒奪者で、オロシャ王家の血筋ではなく、頻繁に反乱が勃発しているともいう。
 一つはオロシャが南蛮でも有数の大国とは言うモノの、その人口は三千万人を超える程度で、日本の人口と変わらなかった。
 何より大切な事は、オロシャの首都が遥か遠くにあり、陸路を使って援軍や兵糧を送るのが難しく、現に幕府に開国と交易を要求するのも、勘察加・西伯利亜の食糧不足に対応するためだった。
 この事実を知った平蔵は、松前福山城と江戸に送った手紙の最後に、絶好の時期なので開戦すべきと書き記していた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

永遠の伴侶(改定前)

白藤桜空
歴史・時代
不老不死の少女は森の中で長い時を過ごしていた。 言葉も、感情も、そして己が『人間』であるということも知らないまま。 そんなある日、少女は一人の少年と出会う。 少女は知る。自分にも『仲間』がいたことを、人の『優しさ』を。 初めて触れたものに少女は興味を抱き、彼の手を取る。 それが、永き『人生』の始まりとも知らずに―――― ※アルファポリスさん、カクヨムさん(更新停止)でも掲載しています。 ※この作品はフィクションであり、 実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。 ※改定後を載せ始めました。良かったらそちらもご覧下さい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

かくまい重蔵 《第1巻》

麦畑 錬
歴史・時代
時は江戸。 寺社奉行の下っ端同心・勝之進(かつのしん)は、町方同心の死体を発見したのをきっかけに、同心の娘・お鈴(りん)と、その一族から仇の濡れ衣を着せられる。 命の危機となった勝之進が頼ったのは、人をかくまう『かくまい稼業』を生業とする御家人・重蔵(じゅうぞう)である。 ところがこの重蔵という男、腕はめっぽう立つが、外に出ることを異常に恐れる奇妙な一面のある男だった。 事件の謎を追うにつれ、明らかになる重蔵の過去と、ふたりの前に立ちはだかる浪人・頭次(とうじ)との忌まわしき確執が明らかになる。 やがて、ひとつの事件をきっかけに、重蔵を取り巻く人々の秘密が繋がってゆくのだった。 強くも弱い侍が織りなす長編江戸活劇。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

処理中です...