幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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蝦夷地開拓

拿捕

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「コウフクシロ」
「テヲアゲロ」
「コウフクシロ」
「シロハタヲアゲロ」
 乗船前に習ったばかりのフランス語とロシア語で、オロシャ軍艦の将兵に降伏を呼び掛けた。
 オランダ海軍士官から教授受けた知識では、大砲の攻撃だけでは敵軍艦を無力化するのは難しいとの事だった。
 だから最初から、最後は敵軍艦に乗り込んで白兵戦にする予定だったのだ。
 向井将監の流れをくむ同心と水主は、戦国時代方の戦法と同じなので、勇躍してオロシャ軍艦に乗り込んでいった。
 一番の目的は、オロシャ軍艦を拿捕し、オランダから学んだ南蛮船との違いを知る事だった。
 開国し、南蛮の知識と技術を取り入れると決めた以上、それをオランダ一国に頼るのは危険だと、田沼意次を始めとする幕閣は考えていたのだ。
 特に江戸蘭学社中は、真剣にオランド語とオランダの知識を学んでいるからこそ、オランダが南蛮では二流国だと理解していたのだ。
「コウフクスル」
「ユルシテクレ」
「タスケテクレ」
 武士の基準では、臆病と言うくらい簡単に、オロシャ軍艦の将兵は降伏した。

「スベテヲハナセ」
「ナニヲハナセバイイノダ」
 平蔵は通詞を伴って尋問をしたが、ロシア語よりフランス語やラテン語の方が通じた。
 水兵は無学で、ロシア語以外は話せず、此方もロシア語が分からないので、何の情報も得ることが出来なかった。
 だが士官は、フランス語・ドイツ語・英語・ラテン語・ギリシャ語が話せるようで、片言の英語とフランス語で尋問を続けた。
 江戸蘭学社中は、今後の開国を見越して、英語とフランス語を学んでいたので、何とか会話を成立させることが出来たのだ。
 聞き出した事は全て松前福山城と江戸に送ったのだが、特に大切なことがあった。
 一つはオロシャの勘察加・西伯利亜における戦力だったが、コサックと言う騎兵が中心だが、エカチェリーナ二世という女王の命令で、オスマン帝国と戦争をしている最中だった。
 一つはエカチェリーナ二世が正当な王位継承者の夫を殺した簒奪者で、オロシャ王家の血筋ではなく、頻繁に反乱が勃発しているともいう。
 一つはオロシャが南蛮でも有数の大国とは言うモノの、その人口は三千万人を超える程度で、日本の人口と変わらなかった。
 何より大切な事は、オロシャの首都が遥か遠くにあり、陸路を使って援軍や兵糧を送るのが難しく、現に幕府に開国と交易を要求するのも、勘察加・西伯利亜の食糧不足に対応するためだった。
 この事実を知った平蔵は、松前福山城と江戸に送った手紙の最後に、絶好の時期なので開戦すべきと書き記していた。
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