幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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蝦夷地開拓

砲撃戦

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「全門斉射」
 ドゴッーン
 平蔵の命令で左舷の大砲が一斉に放たれた。
 轟音と同時に、オロシャの軍艦に大穴が開く。
 既に陸地の味方が砲撃されているとは言え、何の躊躇いもない、決意に満ちた攻撃だ。
 前もって次発の準備が整えられていたので、二度目の斉射も訓練通り素早く放たれた。
 ドゴッーン
 チェーン付き弾の御陰か、それとも二連弾の成果か、オロシャの軍艦も帆柱が一本へし折れた。
 敵は甲板上でオロオロするだけで、此方に砲撃する様子が見られない。
 見張りが不注意だったのだろう。
 平蔵は不意を突かれる事の恐ろしさが身に染みた。
 自分が指揮する艦隊では、見張りを徹底させることを決意していた。
 三度目の斉射がオロシャの軍艦を打ちのめす。
 帆走しているから後戻りなど出来ない。
 帆を操って回頭しない限り、もう一度オロシャの軍艦を攻撃する事は出来ない。
 だが回頭するまでもなく、後続の百トン級南蛮船「迅速丸」八隻が、砲撃してくれている。
「迅速丸」の小型大砲では、オロシャの戦艦に対した打撃は与えられないが、散弾や小石を詰めて放ち、敵兵を薙ぎ払っている。
 勿論艦上の兵士が、鉄砲でオロシャ水兵を狙撃している。
「オロシャの船に接舷する。斬り込み用意」
「「「「「応」」」」」
 平蔵配下の御先手鉄砲組が、気合込めて応じる。
 オロシャの軍艦に接舷する前に、敵兵を狙撃した。
 平蔵達も命懸けだ、少しでも躊躇ったら、自分達がオロシャ兵に殺されてしまう。
 ドゥッーン
 ミシミシミシミシ
 出来る限り優しく接舷しようとしたが、大型艦に無理矢理接舷するのだから、船体を構成する材木が悲鳴を上げるのは当然だ。
 場所によっては折れてしまっている所もある。
「乗り込め」
 号令一家、御先手組がオロシャの軍艦に乗り込んだ。
 流石に経験豊富な御先手組の頭だ。
 今回の戦いに当たり、志願する旗本御家人を集めたが、頭だけは火付け盗賊改め方・屯田兵団の与力を抜擢した。
 太平の世に馴れた武士は、実戦経験など皆無で、普段どれほど大言壮語していようと、いざ戦いになると腰を抜かしたり、小便をちびったりする者がいるのだ。
 若い頃からの放蕩三昧で、渡り中間や渡世人と、切った張ったの日々を送っていた平蔵には、幕臣は洟垂れ小僧にしか見えない。
 唯一捕り物で、火付け盗賊と切り結んでいた、火付け盗賊改め方の与力同心だけが、本当の意味で実戦経験のある武士と言える状況だった。
 それでも小普請から選び抜かれて新設された御先手組だけあって、躊躇うことなくオロシャ軍艦に斬り込んでいった。
 指揮官率先の効果だろう。
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