幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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蝦夷地開拓

輸出交渉

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「カピタン殿、どうであろうか」
「そうですね。日本酒と同じ値段というのは難しいと思いますよ」
「しかしカピタン殿、日本酒と同じ値段で買って貰えれば、その分カピタン殿は持ち込む商品をすべて買い取ることが出来る」
「それは有り難い話ですが、ウィスキーは南蛮が本番ですし、白酒は清国が本場です。日本で造ったものは少々値が下がります」
「どれくらいの値段で買ってくれるのだ」
「一樽銀十五匁くらいですね」
「安すぎる。では日本酒ならば、どれだけ多くても同じ値段で買ってくれるのか」
「大量に出回ると値崩れを起こしますが、ある程度までなら大丈夫です。ですが千樽二千樽となりますと、矢張り一樽銀十五匁位にまで値下がりします」
 天明六年は、印旛沼の開拓地で水害はあったものの、他は満足出来る状態であった。
 噴火の影響による凶作は続いていたが、上杉鷹山が創らせた対応策によって、餓死者を出すような事はなかった。
 何より幕府が新設した蝦夷加役の御陰で、東国諸藩の藩士が飢えずに済んだ。
 幕府としても、僅かな出費で千島に野戦陣地を築くことが出来たので、上出来だと言えた。
 今年は秋だけしか漁を出来なかったが、砦が完成した来年からは、もっと多くの狩猟・漁猟・採集が期待できた。
 白酒・ウィスキー・ウォッカの販路と売価はまだ確定していなかったが、輸入した玄米を日本酒に醸造して輸出して、利益を得る方法が確立できた。
 一石の玄米を銀五十匁で輸入して、それを原料に一石四斗二升の日本酒を醸造する。
 大雑把に一升の酒を造るのに七合の玄米が必要になる。
 一石の玄米から一石四斗二升の日本酒を醸造する事が出来る。
 日本酒は一斗樽(中身は八升)が銀五十五匁で輸出出来るから、大雑把に計算して銀九百七十六匁になる。
 人件費や設備費などを全く考えない計算だが、銀五十五匁の玄米が、銀九百七十六匁に大化けするのだ。
 今迄は国内で食べる米を確保するだけで精一杯だったが、玄米を安価に安定して輸入出来るのなら、日本酒の醸造で幕府の勝手向きを支えることが出来る。
 そこで幕府は、オランダ・清・朝鮮に対して、俵物や酒などの商品輸出代金分の輸入量は制限なしと通達した。
 この知らせを受けて、オランダ・清・朝鮮の商人は、母国や交易国に高値で売れる日本商品を、大量に買い付ける事となった。
 特に幕府の意向を受けた日本の商人が相談してきた、白酒・ウィスキー・ウォッカを日本酒並みの高値で売却する相手を探し回った。
「輸出品価格(一斤当たりの銀):斤(六○○グラム)・酒と醤油は樽(八升)」
昆布 :銀〇・三三四匁(約一・二五グラム)
鶏冠草:銀一匁
鯣  :銀一・三匁
鱶鰭 :銀二匁
干鮑 :銀二・七八八匁
煎海鼠:銀三・二七三匁
干貝 :銀〇・六五匁
日本酒:銀五十五匁
醤油 :銀十匁
狐皮 :銀一・六三七匁
金一両は銀六十匁
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