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蝦夷地開拓

成功した事で現れて来た問題点

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 老中・田沼意次は、率先して会議を導き、徳川家基に考えさせようとしていた。
 徳川家基も、貪欲に田沼意次の考えを吸収しようとしていた。
「頭となる有能な幕臣が少ない事でございます」
「何、それほど幕臣の質が落ちていると申すのか」
「少なくとも、第一次や第二次に選抜された者よりは、大幅に見劣り致します」
「そうか。そうであろうな」
「はい。何しろ厳寒の蝦夷地に赴き、オロシャとの合戦も覚悟して渡った第一次開拓団には、怠惰な者はただの一人もおりませんでした」
「うむ」
「ですが今では、目先の利につられて、自身では鍬を手に取り気概もなく、家臣や家人を働かせる気で志願する者が大半でございます」
「それはいかぬ。そのような者が屯田兵に加われば、勇士といえどもつられて堕してしまうかもしれぬ」
「はい。ですので、家柄がよく、自ら働く気概のない者は、絶対に蝦夷地に行かせぬようにせねばなりません」
「だが本当にその者が勇士かどうかは、実際に蝦夷地で開拓に携わらなければわかるまい」
「はい。我々が見損ねた者は、頭や組頭に送り返す権限を与えねばなりませんが、家禄が高くなればなるほど、真面な人物が少なくなります」
「困ったものよな。だがだからと言って、上様や余の側近や護衛を割くわけには行かぬ」
「それは当然の事でございます。そこで抜擢してもらいたい者達がおります」
「何だ、優秀な者がいるのではないか」
「ただ、元の家柄が低く、成り上がり者と陰口を叩かれる事と思われます」
「陰口を叩くような者は、どれほど家柄がよくても、召し放ちにしてしまえばよい。オロシャとの合戦も近いと言うのに、御公儀の足を引っ張るようでは、譜代家臣とは言えぬ」
「承りました。上様もそれで宜しゅうございますか」
「構わぬ。大納言の決定した通りに事を始めよ。ただ確認しておきたいのだが、成り上がり者とは両番格徒士組衆の事か」
「左様でございます」
「ちょっと待て、主殿頭。両番格徒士組衆には、蝦夷加役となった東国藩士を率いねばならぬのではないか」
「確かにその通りではございますが、二十八人全員が必要とは言えません。四人を大番組頭に抜擢し、両番格徒士組頭を小十人頭や徒士頭に抜擢いたします」
「うむ。だが主殿頭の話を聞いておると、第三次開拓団の頭や組頭を務める者の人選は、慎重に選ばねばならぬな」
「はい」
「大番組」
大番頭 : 一人:五千石
大番組頭: 四人:六百石
大番衆 :五十人:二百石
「徳川幕府第一次開拓団」
徒士組 :一組
御先手組:二組
黒鍬組 :一組
千人同心:一組
「徳川幕府第二次開拓団」
小十人組:二組
御先手組:二組
黒鍬組 :二組
千人同心:十組
「徳川幕府第三次開拓団」
大番組 :一組
小十人組:二組
徒士組 :二組
御先手組:二組
黒鍬組 :二組
千人同心:十組
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