上 下
78 / 106
蝦夷地開拓

火付け盗賊改め方与力家の家臣

しおりを挟む
「父上、先程の御話、御受けしようと思います」
「源太郎、御前に誇りはないのか」
「いえ、私にも武士の誇りはございます」
「では我々を召し放ちにした、幕府の手先に仕えるとはどういう了見だ」
「では父上は、己の誇りを守るために、娘を売って飯を喰う御心算ですか」
「何だと、親に向かって何という口をきく」
「親なればこそ、人として間違った事をしようとしているから、諫言しているのです」
「親の為に身を売るのは、子供として当然の孝の道だ」
「仕官の口があるのに働きもせず、娘を売って酒食や遊興にふけるのは、外道の道としか言えません」
「おのれ、手討ちにしてくれる」
「貴方のような屑に、黙って斬られる私ではありません。母上様や妹達の為にも、返り討ちして見せます」
「おのれ、おのれ、おのれ。子供の分際で儂を馬鹿にしおって」
「僅かな銭欲しさに、不正をして主君を偽っていた同僚を見逃していたのです。召し放ちになるのは当然です。切腹を申し付けられなかったことを感謝すべきです」
「死ね」
「御免」
 流石に父親を殺せなかったのか、息子は父親に当て身を食らわせて気絶させた。
 だがこの時代の親子関係では、父親が娘を売るのは普通の事だった。
 ここで父親を打ち負かしても、殺さない限りはどこで借金を作るか分かったモノではない。
 そんな事になれば、妹が連れ攫われてしまう。
 思い余って若党に誘ってくれている与力家当主に相談したら、田沼松前福山城代に引き合わせてもらえた。
 話を聞いた田沼意知は、城代直々の布告として、幕臣に召し抱えられた陪臣当主は、父親であろうと絶縁する事が可能であり、親・親族などは連坐から外されると布告した。
 更に元娘や元妻を目当てに金を貸しても無効だとし、もし強制的に連れ去ろうとしたら、金貸しの親方も金主も極刑に処すと布告した。
 田沼親子の容赦ない処分は日本中に広まっていたので、絶縁処分になった者に金を貸す者はいなくなった。
 この頃の火付け盗賊改め方与力家は同心家と同じように、前年度に二町十二石の開拓地が認定され、今年度には四町二十四石の開拓地が認定されていた。
 併せて六町三十六石(九十俵)換算の取高となっていた。
 しかも親子で二百俵の与力として出仕しているので、石高としては恵まれているものの、与力自身も与力の家臣も家族扶持が支給されないので、家臣の成り手が少なかった。
 特に見習い与力となった惣領部屋住みは、新規家臣を探すのに苦労していたが、仙台藩が多くの家臣を召し放ちにしたので、彼らを抱え席として召し抱えて軍役人数を満たした。
 それと今年は凶作で米価が高騰していたので、米を売った銭で東国から流れてきた農民を使用人として雇い、開拓地で採れた雑穀を共に食べ農作業に従事した。
 食うや食わずの生活で東国から蝦夷に流れてきた農民は、日当を頂けるうえに、雑穀とは言え腹一杯食べることが出来るのを心から喜んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

徳川家基、不本意!

克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

三賢人の日本史

高鉢 健太
歴史・時代
とある世界線の日本の歴史。 その日本は首都は京都、政庁は江戸。幕末を迎えた日本は幕府が勝利し、中央集権化に成功する。薩摩?長州?負け組ですね。 なぜそうなったのだろうか。 ※小説家になろうで掲載した作品です。

処理中です...