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蝦夷地開拓

徒士格同心家見習いの嫁取り

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「御父上、信じていいのでしょうか」
「信じるしかあるまい」
「しかし我が家は、幕府の指導で召し放ちになった家です」
「だが御城代様の布告に、相手がアイヌであろうが穢多非人であろうが、男女の契りを結んだ女は、正室か側室に迎えるように書かれてあったではないか」
「それはそうなのですが、何やら騙されている気がして」
「御頭様からも直々に御言葉を貰ったではないか」
「はい。まるで夢のようでした」
「禄を失い、蝦夷に渡るように命じられ、島流しにされたと思っていたが、間違いであった」
「でも、父上様や兄上様はどうなるのですか」
「牢人のまま、日雇いとして畑仕事を手伝うか、刀を捨てて、小作人になるしかないだろうな」
「そんな」
「御頭様からは、旗本格に成った暁には、若党に取り立てるから、今は小者として同心家に仕えるように言われているが、流石にそれを信じるわけにはいかん」
「そうですね。そこまで望むのは、余りに虫のいい話ですよね」
 火付け盗賊改め方同心家は、徒士組格同心家となっていたが、惣領部屋住みが見習いとして開拓地を任されることになっていた。
 父親達は、第二次開拓団の世話役として、樺太に渡ることになったからだ。
 見習いとは言え大切な開拓に従事するので、父親と同じように三十俵二人扶持(四十俵)と自分と小者の成人家族分の扶持が幕府から支給されることになった。
 そこで急いで嫁を迎え小者を召し抱えようとしたのだが、徒士格に成って、槍持ちとなった次男三男の嫁さえ、アイヌや穢多非人から迎えなければいけないほど、女性が不足していたのだ。
 そこに惣領部屋住みが見習いとなり、正室を迎えなければいかなくなったのだから、女性不足に拍車がかかった。
 徒士格に成った事で、惣領部屋住みは江戸から親戚や友人の娘を嫁に迎えられた。
 だが見習いとなった惣領部屋住みの小者の成り手と、小者の嫁がどうしても見つからなかった。
 幸いと言うわけにはいかないが、丁度その年に大凶作が起こり、処罰された仙台藩の家臣が大量に蝦夷地に送られてきたのだ。
 禄を離れた武士は惨めなものだ。
 自分で田畑を耕しながら武士をしていた微禄の者は、むしろ生活に困らなかったが、それなりの地位にいた者は直ぐに生活に困窮した。
 娘を売るのは忍びなかったが、女衒に娘を売るか、開拓団の部屋住みに娘を嫁がせるかの二択に陥っていた。
 この頃の徒士格同心家は、前年度に二町十二石の開拓地が認定され、今年度には四町二十四石の開拓地が認定されていた。
 併せて六町三十六石(九十俵)換算の取高となっていた。
 来年度に八町四十八石(百二十俵)の開拓を成功させるには、大家族の牢人の娘を正室に迎え、大家族の牢人を小者に召し抱える必要があったのだ。
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