幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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大納言対外政策

親心

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「大納言が漸く側室を迎えてくれた。礼を申すぞ」
「勿体無い御言葉を賜り、恐悦至極でございます」
「そのように改まるではない。ここには余とそなたしかおらん」
「は。有難き幸せに存じます」
「しかし、縁と言うのは面白いものじゃな」
「はい。まことに」
「あの時に供に側室を置き、設けた子が夫婦になるのか」
「御正室様を差し置き、恐れ多きことでございます」
「気にするな。可哀想な事だが、本来宮家や公家から輿入れした正室は、子を設けないのが将軍家の仕来りなのだ」
「上様はそれを改められました」
「それが、治済めの野望に火を付けたのかもしれぬ」
「御恐れながらそれは違います。上様は正しき人の道を歩まんとされただけでございます。ただただ治済が品性下劣だったのです」
「そうであるか」
「はい」
「それで、上総介からはまだ嘆願が来るのか」
「はい」
「気持ちは分からんではないが、幼き子まで殺すのは忍びない」
「いかに兄達が治済に殺されたからと言って、上様が憐憫の情で許された、幼い子供達まで殺せと言うのは、上総介殿の思い上がりでございます」
「治済を切腹させ、子や兄弟に永蟄居を申し渡しておる。これ以上は世を騒がせるだけであろう」
「仰せの通りでございます。ただ越前松平家と筑前黒田家からは、隠居願い養子願が度々出されております」
「改易が怖いのか」
「恐らく」
「ならば主殿頭から内々に、余か大納言の子を養子に差し向ける心算だから、暫く待つように伝えよ」
「宜しいのでございますか」
「余には大納言しか子がなく、大納言にもまだ子がないが、主殿頭の諫言を受けて、何としてももう一子は設けて見せる」
「有難き幸せでございます」
「だから今の内から上総介の下に御庭番を送り、何時でも処分できるようにいたせ」
「承りました。白河松平家に人を入れておきます」
「いや、白河松平家だけではない。全ての大名に人を送り、大納言に仇名すことのないようにいたせ」
「全ての大名家に今直ぐ心利いたる者を送り込むのは難しいので、旗本御家人の中には大名家やその陪臣と縁組している者がありますので、その者達から話を聞く仕組みを作ります」
「どのような方法でも構わん。もう二度と大納言が傷つけられることのないようにいたすのだ」
「しかと承りました」
「話は変わるが、南蛮船の話はどうなっておる」
「出島のカピタンとは、バタヴィアから船大工を送ると言う事で、話がついております」
「カピタンの江戸参府は近々であったな」
「はい」
「ではまず大納言に会わせて、南蛮船の件は大納言の手柄といたせ」
「承りました」
「それと、意知が蝦夷から戻ったら、大納言の御側御用取次に任じよ」
「上様」
「そろそろ次代の事も考えねばならぬ」
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