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大納言対外政策

大納言の対外政策二

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「よく集まってくれた。皆の忌憚のない意見を聞きたい」
「「「「「は」」」」」
「先ずは源内の意見を聞きたい」
「最初に御下問していただき、恐悦至極でございます。大納言の御前に参る前に江戸蘭学社中で意見を戦わせ、一定の成果を得ることが来ましたので、その策を御報告させていただきます」
「うむ、分かった。しかし纏まった策だけではなく、他の策も聞いておきたいし、何故余に報告する策に決まったかも知りたい」
「承りました」
「先ずは主殿頭の申した軍資金だ」
「はい。我々が調べさせていただいたところ、幕府の勝手方が使える金は八十万両でございますが、大奥だけで二十万両を超えてります」
「うむ」
「御老中は民の為に使う予算は手を付けず、上様の勝手向きに使う御納戸金を二万四千六百両から一万五千両にまで切り詰め、幕府の勝手向きを立て直しておられますが、それでも軍資金を捻出するのは難しくなっております」
「・・・・・分かった」
「今金を貯め込んでいるのは商人でございますが、無理矢理奪う事は王道に反します」
「・・・・・分かった」
「そこで考えましたのが、商人が金を出したくなることを行うのでございます」
「金に執着する商人に、進んで金を出させる事など出来るのか」
「大納言様は金を卑しんでおられるようですが、幕府にとって軍資金となる金には、商人以上に執着せねばなりません」
「・・・・・さようか」
「商人に新田開発を認め、印旛沼の開拓を行わせます」
「うむ。領地を増やし年貢収入を増やすのだな」
「それだけではありません」
「ふむ、他にもあるのか」
「印旛沼の中に水路を作り、江戸へ蝦夷や東北の産物を届ける近道を作るのでございます。いえ、それは同時に、蝦夷に幕府軍を送る水路でもあるのです」
「天晴である」
「しかもその予算を、全て商人に出させるのです」
「だが一体商人にどのような利があるのだ」
「開拓した新田の八割を、金を出した商人に与えるのでございます」
「まて、年貢はどうなるのだ」
「年貢は幕府に納めさせます」
「商人にいったいどんな利があるのか」
「小作人に貸して小作料をとることも、売り払うことも可能でございます」
「なるほど」
「残る二割の新田は、地元の請負人のものとなりますから、領民からも反対もございません。しかも新田の年貢は幕府に納められます」
「なるほど、オロシャを討ち払った後に、功臣に与える領地に出来るのだな」
「はい。これが成功すれば、大名や旗本が商人の金で新田開発が出来るようになります」
「うむ」
「そうなれば、商人からの借財に苦しむ大名や旗本が楽になります」
「幕府が手本を示すのだな」
「はい。更に申しますれば、新田開発に商人が使う金は、全て人足や地元の百姓の手に入り、いずれは幕府の年貢に回ってまいります」
「重畳であるな」
「何より工事の間は、江戸の無宿人や地元の百姓に仕事を与え、新田が出来れば小作人として働くことが出来ます」
「主殿頭に検討させ、上様に奏上すべきであるな」
「はい」
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