幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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徳川家基毒殺未遂事件

長谷川平蔵宣以

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「この者が長谷川平蔵でございます」
「苦しゅうない、面を上げよ」
「は、長谷川平蔵宣以でございます」
「この平蔵は、若き頃より一刀流に励み、少々の相手に後れを取るような事はありません」
「うむ。話は聞いておるな、平蔵」
「は。命に代えましても、大納言様を御守りいたします」
「頼んだぞ」
「は」
 家治に平蔵を会わせるのは簡単であった。
 平蔵は西の丸御進物番の役目に任じられており、家基の看病に西の丸に入っている家治に御目見えするには、絶好の機会であった。
 平蔵は二十三歳の頃に一度家治に御目見えしていたが、それ以降は御目見えする機会がなかった。
 だがこの時、平蔵は家治に強い印象を残すことが出来た。
 若い頃は剣の腕を頼んで無頼の徒を束ね、放蕩無頼の限りを尽くしていたこともあり、独特の色気を持っていた。
 普段は一刀流で鍛え上げた逞しい身体に派手好みの着物を着こみ、色町に通っていた。
 苦み走った色男が玄人女に鍛えられ、口八丁手八丁の手管も身につけていた。
 だから決まった肩衣半袴を着込んでいても、他の者がどうしても及ばない魅力を醸し出していた。
 家治に男色の趣味はなかったが、その魅力で一応の信用を得ることに成功した。
「上様、平蔵は西の丸進物番を務めておりますが、それでは常に大納言様の側に侍ることが出来ません」
「うむ。如何にすればいいと申すのだ」
「常に大納言様に侍り、御命を守るとなりますと、小姓の御役目に就けるのが最適かと思われます」
「ふむ。だが毒殺を防ぐのなら、毒見役の小納戸御膳番に付けた方がよいのではないか」
「毒見役は他の者でも務まりますが、刀を持って襲い掛かってくる者は小姓でなければ防げません」
「分かった。平蔵には大納言付きの小姓を務めてもらう。左様心得よ」
「は。有難き幸せにございます」
 田沼意次は、長谷川平蔵が家基付き小姓に就任できるように、急ぎ手続きをとった。
 誰が家基の命を狙っているか分からない以上、一刻も早く信頼出来る者を側に付けなければならなかった。
 それに家治には小納戸御膳番の必要性を低く言ったが、また毒を盛られる可能性も高く、家基付きの小納戸御膳番人選も急ぐ必要があった。
 今は寝たきりで薬湯を口にするだけだが、いずれは食事を口にするようになる。
 熟考の末、また前例無視をすることにした。
 新たに奥医師に任じた、町医者達に毒見をさせるのだ。
 敵がまた毒を盛ろうとしているかどうかは分からないが、医師が直々に毒見をしているとなれば、毒殺を諦める可能性もある。
 未然に毒殺を防ぐためならば、前例無視の悪評など気にしない決意を田沼意次はしていた。
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