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第一章
第75話:嵌め手
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皇紀2223年・王歴227年・早春・ロスリン城
俺が電光石火の速さでアザエル教団の四地方聖堂騎士団二十万兵を壊滅させ、返す刀で自由都市のアザエル教団狂信者だけでなく、聖山と呼ばれていたベリアル教団の本拠地にある大神殿を焼き払い、聖山自体を占領した事に国中が驚愕した。
首都周辺の地方でも、情報収集力のない貴族や騎士では、俺の行った事を全く知らないだろう。
だが、情報に重きを置いている有力貴族や商人は即座に知った。
皇帝陛下や皇国貴族には俺から使者を送って正確な情報を知らせた。
弟君やベリアル教団幹部が、皇帝陛下や皇国貴族に泣きつくのは分かっていたので、事前に聖山を占領接収する可能性と善後策を伝えてあった。
それを実行したと正式な使者を送って知らせ、約束していた通り、必ず皇帝陛下と皇家の面目を保つと確約したのだ。
俺の堂々とした態度と次々と放つ予想外の手に、カンリフ公爵も決断を迫られた。
このまま俺と対峙していると、天下分け目の大戦に行きついてしまう。
領境に配備していた一万兵だけで、アザエル教団から奪った四地方を制圧する事ができて、主力軍はそのままカンリフ公爵軍と対峙している。
二十万兵を昏睡させた俺は、何時でも何処でも攻撃する事が可能なのだ。
皇帝陛下に忠誠を尽くし、決して刃向かわないとカンリフ公爵が誓うのなら、臣従してもいいとまで言った俺と敵対し続けると言う事は、普通に解釈すれば皇帝陛下に刃を向ける事を考えていると取られても仕方がない。
俺がその事を全国の王国貴族や騎士に伝えれば、カンリフ公爵を討伐する為の大義名分となりえるのだ。
その事に気がつかないカンリフ公爵ではない。
「エレンバラ皇国名誉侯爵、この度の事は全てこちらが悪かった。
カンリフ公爵もアザエル教団の教主に惑わされてしまったのだ。
今後はこのような間違いは犯さないと誓わせていただきますので、どうか今回だけは詫びを受け入れてもらえないだろうか」
俺と敵対し続けるのは悪手だと判断したカンリフ公爵は、一族の中でも俺と姻戚関係にあるフリーク王国侯爵を和平の使者に送ってきた。
形だけとはいえ、カンリフ公爵が敵対する相手に詫びを入れるのは、何十年ぶりだろうか。
全国の貴族士族が事の成り行きを見守っている事だろう。
「さて、全面的に詫びを入れてくると言う事は、それなりの賠償をしていただけると言う事でしょうか。
私だけではなく、皇帝陛下に対してもです。
以前私は言っていたはずですよね。
『皇帝陛下に対して刃向かわないなら、カンリフ公爵に臣従する』と私が言った直後に攻撃を仕掛けてきたのです。
それは皇帝陛下を弑し奉つる気があったという事ですよね」
「違う、我らに皇帝陛下に反逆する気はまったくない。
我らにありもしない罪を擦り付けるのは止めてもらおう」
「そのような言葉、国中の誰が信じると言っているのです。
私の言った言葉も、カンリフ公爵がやった事も、誤魔化しようがありませんよ。
この国の全ての民が、カンリフ公爵がした事を記憶し書き残しているしょう。
少なくとも字を書ける者ならば、この国が創られて以来続く皇室をカンリフ公爵が滅ぼそうとした事、必ず書き残しますよ」
「違う、我らはエレンバラ家を攻撃しただけだ。
皇帝陛下にも皇室にも弓引いていない」
「それは、アザエル教団に騙されたのではなく、カンリフ公爵が我が家を敵と定めて攻撃を仕掛けてきたという事ですよね。
それこそ、皇帝陛下と皇室に対して刃を向けたという事です。
私は皇国貴族で、貴男方は王国貴族なのですから。
和平を結ぶ気がないのなら、さっさと帰っていただきたい。
私は皇帝陛下と皇家を護るために断じて引きません。
皇国名誉侯爵として、全国の貴族士族にカンリフ王国公爵討伐の助太刀をお願いするだけですよ」
「待ってくれ、もう一度一族で話し合う。
エレンバラ皇国名誉侯爵殿が納得する賠償を考えてくる。
だからしばらく猶予をもらいたい、頼む」
「では、今後の交渉は祖父としてもらいます。
当主ではない相手と、これ以上交渉する気はありません。
それと、祖父は高齢なので皇都に向かう事はできませんので、交渉がしたければカンリフ公爵の使者がこちらに来てください。
ただ、あまり時間はないと思いますよ。
カンリフ一族の本拠地のあるアースキン地方は、今結構多くの敵と領地を接していますよね。
主力軍が我が軍と対峙している以上、本拠地を攻められても軍を返せない。
ハミルトン地方では西国の雄が土着の貴族士族を着々と属臣としている。
彼らが何時アースキン地方に攻め込むか分かりませんよ。
スコット地方は名目だけとはいえ、皇国選帝侯家の分家が支配者になっている。
内部で争うより、皇帝陛下に叛旗を翻した賊臣を討って、外の領地を切り取る方を選ぶかもしれませんよ」
「急いで一族の意見をまとめる、だからもう少しだけ待って頂きたい」
俺が電光石火の速さでアザエル教団の四地方聖堂騎士団二十万兵を壊滅させ、返す刀で自由都市のアザエル教団狂信者だけでなく、聖山と呼ばれていたベリアル教団の本拠地にある大神殿を焼き払い、聖山自体を占領した事に国中が驚愕した。
首都周辺の地方でも、情報収集力のない貴族や騎士では、俺の行った事を全く知らないだろう。
だが、情報に重きを置いている有力貴族や商人は即座に知った。
皇帝陛下や皇国貴族には俺から使者を送って正確な情報を知らせた。
弟君やベリアル教団幹部が、皇帝陛下や皇国貴族に泣きつくのは分かっていたので、事前に聖山を占領接収する可能性と善後策を伝えてあった。
それを実行したと正式な使者を送って知らせ、約束していた通り、必ず皇帝陛下と皇家の面目を保つと確約したのだ。
俺の堂々とした態度と次々と放つ予想外の手に、カンリフ公爵も決断を迫られた。
このまま俺と対峙していると、天下分け目の大戦に行きついてしまう。
領境に配備していた一万兵だけで、アザエル教団から奪った四地方を制圧する事ができて、主力軍はそのままカンリフ公爵軍と対峙している。
二十万兵を昏睡させた俺は、何時でも何処でも攻撃する事が可能なのだ。
皇帝陛下に忠誠を尽くし、決して刃向かわないとカンリフ公爵が誓うのなら、臣従してもいいとまで言った俺と敵対し続けると言う事は、普通に解釈すれば皇帝陛下に刃を向ける事を考えていると取られても仕方がない。
俺がその事を全国の王国貴族や騎士に伝えれば、カンリフ公爵を討伐する為の大義名分となりえるのだ。
その事に気がつかないカンリフ公爵ではない。
「エレンバラ皇国名誉侯爵、この度の事は全てこちらが悪かった。
カンリフ公爵もアザエル教団の教主に惑わされてしまったのだ。
今後はこのような間違いは犯さないと誓わせていただきますので、どうか今回だけは詫びを受け入れてもらえないだろうか」
俺と敵対し続けるのは悪手だと判断したカンリフ公爵は、一族の中でも俺と姻戚関係にあるフリーク王国侯爵を和平の使者に送ってきた。
形だけとはいえ、カンリフ公爵が敵対する相手に詫びを入れるのは、何十年ぶりだろうか。
全国の貴族士族が事の成り行きを見守っている事だろう。
「さて、全面的に詫びを入れてくると言う事は、それなりの賠償をしていただけると言う事でしょうか。
私だけではなく、皇帝陛下に対してもです。
以前私は言っていたはずですよね。
『皇帝陛下に対して刃向かわないなら、カンリフ公爵に臣従する』と私が言った直後に攻撃を仕掛けてきたのです。
それは皇帝陛下を弑し奉つる気があったという事ですよね」
「違う、我らに皇帝陛下に反逆する気はまったくない。
我らにありもしない罪を擦り付けるのは止めてもらおう」
「そのような言葉、国中の誰が信じると言っているのです。
私の言った言葉も、カンリフ公爵がやった事も、誤魔化しようがありませんよ。
この国の全ての民が、カンリフ公爵がした事を記憶し書き残しているしょう。
少なくとも字を書ける者ならば、この国が創られて以来続く皇室をカンリフ公爵が滅ぼそうとした事、必ず書き残しますよ」
「違う、我らはエレンバラ家を攻撃しただけだ。
皇帝陛下にも皇室にも弓引いていない」
「それは、アザエル教団に騙されたのではなく、カンリフ公爵が我が家を敵と定めて攻撃を仕掛けてきたという事ですよね。
それこそ、皇帝陛下と皇室に対して刃を向けたという事です。
私は皇国貴族で、貴男方は王国貴族なのですから。
和平を結ぶ気がないのなら、さっさと帰っていただきたい。
私は皇帝陛下と皇家を護るために断じて引きません。
皇国名誉侯爵として、全国の貴族士族にカンリフ王国公爵討伐の助太刀をお願いするだけですよ」
「待ってくれ、もう一度一族で話し合う。
エレンバラ皇国名誉侯爵殿が納得する賠償を考えてくる。
だからしばらく猶予をもらいたい、頼む」
「では、今後の交渉は祖父としてもらいます。
当主ではない相手と、これ以上交渉する気はありません。
それと、祖父は高齢なので皇都に向かう事はできませんので、交渉がしたければカンリフ公爵の使者がこちらに来てください。
ただ、あまり時間はないと思いますよ。
カンリフ一族の本拠地のあるアースキン地方は、今結構多くの敵と領地を接していますよね。
主力軍が我が軍と対峙している以上、本拠地を攻められても軍を返せない。
ハミルトン地方では西国の雄が土着の貴族士族を着々と属臣としている。
彼らが何時アースキン地方に攻め込むか分かりませんよ。
スコット地方は名目だけとはいえ、皇国選帝侯家の分家が支配者になっている。
内部で争うより、皇帝陛下に叛旗を翻した賊臣を討って、外の領地を切り取る方を選ぶかもしれませんよ」
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