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第一章

第58話:結婚

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皇紀2222年・王歴226年・初夏・ロスリン城

「侯爵閣下、私のためにありがとうございます。
 平民どころか、奴隷にされかけていた私のために、ここまでしてくださって」

 イザベラは心から感謝してくれているが、当然の事をしたまでだ。
 俺は、俺の事を一途に想ってくれるイザベラの事が好きになったのだ。
 最初は単に魔力の多さを重視して選んだ正室候補だが、長く人柄を見ているうちに、心から好きになったのだ。
 万が一魔力の少ない子供が生まれたとしても、この想いが変わる事はない。
 まあ、愛情はあっても、後継者にするとは断言できないけれど。

「愛するイザベラのためなら大したことではないよ。
 だから、もう奴隷同然だとか、平民だったとかは言わない方がいい。
 今のイザベラは男爵の実子で、選帝侯の養女なのだから。
 私とイザベラの子供が侯爵家を継ぐことになるかもしれないんだよ。
 奴隷同然だとか元平民だなんて言ったら、子供が可哀想だよ」

「はい、侯爵閣下と子供のために、もう絶対に口にしません。
 選帝侯の養女に相応しい態度をとって見せます。
 侯爵閣下と御約束した通り、御母上様を御守りしてみせます」

「ああ、そうしてくれると嬉しいよ、イザベラ。
 ただね、もう一つどうしても実行して欲しい事があるのだけど、いいかい」

「はい、なんでしょうか、侯爵閣下の御為なら、何でもやります」

「そうか、ありがとう。
 だったら今からは、侯爵閣下ではなく、ハリーと呼んでくれ。
 もう私達は神に誓った夫婦なのだからね」

「侯爵閣下!」

「駄目だよ、約束通りハリーと呼んでくれないといけないよ」

「ありがとうございます、でも、言い難いです」

 この後で俺とイザベラは本当の夫婦になった。
 何度も愛情を確かめあって、二人とも心から子供の誕生を願った。
 一族一門家臣領民の幸せな生活を守るためには、家督争いだけは防がないといけないので、正室のイザベラとの間に強い魔力を持った子供が必要なのだ。
 同時に、手を組むと決めた相手とは、緊密な関係を築かなければいけない。
 最低でも約束した事は絶対に守らなければいけない。

 リンスター選帝侯家とヴィンセント子爵家に、毎年五百枚の金貨を支援するのは簡単な事だ。
 リンスター選帝侯の血を継ぐフリーク侯爵家のトビー卿に、リンスター選帝侯家を継がす話も、カンリフ公爵家一族にとっては悪い話しではない。
 首都地方を包み込むようにカンリフ公爵家と我がエレンバラ侯爵家がある。
 僅かにエリバンク地方と接している所はあるが、その辺りは首都地方でも僻地で、首都からは結構離れているのだ。

 カンリフ公爵家と我が家が同意した事に逆らえる勢力など、もう首都近郊には全く存在しない。
 王や王国政府など、もはや飾りでしかなく、逆らう事などできない。
 武力も経済力もない皇家や皇国政府も逆らわないだろう。
 問題はリンスター選帝侯の血を継ぐ次男のレジーではなく、俺の従弟にあたるアルロにフリーク侯爵家を継がせたいと要求している事だ。

 この条件を引き下げて、何か別の条件を付けるべきだろうか。
 アルロだってフリーク侯爵の血を継いでいるのだから、無理な要求ではないはずなのだが、それよりはどこか適当な皇国貴族家に婿入りさせるべきか。
 いや、待て、宗教勢力、教団だけは、カンリフ公爵家と我が家の連合に逆らって互角に戦えるかもしれない。
 馬鹿王がその事に気が付かない訳がないのだ。
 今直ぐカンリフ公爵と連絡を取らなければいけない。
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