上 下
56 / 94
第一章

第55話:婚姻政策

しおりを挟む
皇紀2222年・王歴226年・早春・ロスリン城

「実は姉上からハリー殿の正室を選んで欲しいと頼まれていたのです。
 最初はハリー殿がとても力を持った王国男爵と言う条件でした。
 それが王国伯爵になり、あっという間に皇国名誉侯爵となられた。
 その度に姉上の出される条件が高くなり、相手が変わっていきました。
 でも皇国名誉侯爵の間はまだよかったのです。
 選帝侯家でも公爵家でも選び放題でしたから、ですが……」

 その後の言葉を言い淀んだ叔母上の気持ちはよく分かる。
 全く権力も経済力もない皇国貴族は、権威と家柄だけしか誇るモノがない。
 だから、身分が皇国子爵に確定したエジンバラ家との婚姻は、皇国伯爵家から皇国男爵家の中から選ぶ事になる。
 皇国政府が皇帝陛下の御威光に従って、素直に俺に皇国子爵位を俺に与えたのは、成り上がっている俺に対する嫉妬心があるのだろうな。

「叔母上の言いたいことは分かりました、もう何も申されますな。
 私は別に相手がどのような立場の方でも気にしません。
 ですが相手の方が男爵令嬢や伯爵令嬢では、母上が納得されないでしょう」

 母上は俺の事をとても慈しんでくれている。
 猫可愛がりしていると言っていいくらい、溺愛してくれている。
 まだ若いうちに夫を亡くし、たった二歳の俺の成長だけを愉しみに生きてきた。
 俺も家庭内での争いを防ぐために、幼い頃から上手に甘えるようにしてきた。
 俺の結婚相手に過剰な期待をするのも、口出しするのも、しかたのない事だ。

「はい、とても御怒りになって、そのような事になるのなら、皇国子爵位を受けなくていいとまで仰られていて……」

「大丈夫ですよ、叔母上、皇帝陛下の御心を無駄にするような事はしません。
 さきほども申し上げましたが、喜んで子爵位を御受けさせていただきます」

「そうしてくれますか、ありがとうございます、ハリー殿」

「ただ、母上の御怒りもお宥めしなければいけませんので、皇国貴族令嬢との結婚話は全て断ってください」

「それでは姉上をもっと怒らせてしまうのではありませんか」

「ご心配には及びませんよ、叔母上、大丈夫です。
 このハリーが、自ら結婚相手を探しますから、お任せください。
 叔母上にお願いしたいのは、母上への説得なのです。
 母上に皇国貴族から正室を迎えるよりも、王国貴族や平民から正室を迎えた方が、家を保つ役に立つと話してもらいたいのです」

「今の話しぶりから察するに、ハリー殿は平民の娘を正室に迎える気なのですか。
 興亡の激しい王国貴族は、家を保ち血統を残すために、多くの家と婚姻を結ぶと聞いていたのですが、ハリー殿の考えは違うのですね」

「叔母上が聞かれている一般的な王国貴族の婚姻話は正しいです。
 戦力や経済力に優れた家と縁を結び、同盟を組んで敵対貴族と戦うのが王国貴族ですが、私には当てはまらないのです」

「それはどういうことなのですか」

「私はこれでも情に脆い方で、縁を結んだ家と争うのは苦手なのです。
 近隣の王国貴族を縁を結んでしまったら、その家と争う事ができなくなります。
 それでは縁を結んだ家が邪魔になっても、戦争に踏み切れなくなってしまいます。
 それよりは、とても強い魔力を持つ平民の娘を正室に迎えた方がいいのです」

「それは、とても強い魔力を持っているという噂のハリー殿が、是非とも正室に迎えたち思うほどの、強い魔力を持つ娘に心当たりがあると言う事ですか」

「はい、その通りです、叔母上。
 私に万が一の事があろうと、莫大な魔力を持つ後継者がいれば、我が家はもちろん一族一門縁者まで安泰ですぞ。
 私がここまで急激に勢力を拡大できたのは、魔力が多かったからです。
 私に何かあっても、後継者の母親に絶大な魔力があれば、何の心配もありません。
 私が叔母上を支援すれば、皇女殿下は修道院に預けられることなく、皇国貴族の家に降嫁する事ができるのではありませんか。
 ですが降嫁した後に、エジンバラ家が滅んでしまったら、どのような扱いを受けるかわかりませんぞ、叔母上。
 私の正室の家柄よりも、母親として皇女殿下の事を御考えください」

 叔母上には年頃の娘、皇国皇女殿下がおられる。
 本当なら頼まれる前に資金援助して嫁ぎ先を探すべきなのだが、やらなかった。
 こういう時のためのカードに取っておいたのだ。
 同い年の従姉妹に対して非情ではあるが、貴族としては当然の事だ。
 それに、結婚しさえすれば幸せになれる、とは限らないからな。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...