上 下
28 / 94
第一章

第27話:青炎魔狼

しおりを挟む
 皇紀2217年・王歴221年・冬・ロスリン城

「よし、よし、よし、身体を洗ってやるからじっとしているのだぞ」

 くぅうううううん、くぅうううううん、くぅうううううん。

 全長二メートルを超える巨大な身体をしながら、身体を洗うのが怖いと訴えかけてくるのが青炎魔狼がとても可愛くて、心臓を鷲掴みにされてしまう。
 敵影衆の襲撃を防ぐために、急いで魔境に行って魅了してきた魔狼だ。
 神山や霊山にいるというフェンリル狼や竜を魅了して従魔にしたかったのだが、今から直ぐに行ける魔境は、エレンバラ領の奥にそびえる山の中だけだった。
 場所も時間も限られていたので、青炎魔狼の群れで妥協したのだ。

「本当に大丈夫なのですか、ハリー殿。
 襲ってきたりはしないのですよね、ハリー殿」

 母上が顔を引きつらせながら聞いてくる。
 こんなに可愛いのに、母上は大和達が怖くて仕方がないようだ。
 今回俺が魅了した青炎魔狼の群れは十二頭だった。
 大和が雄のリーダーで、武蔵が雌のリーダーをしている。
 雄と雌で順位があるのだが、繁殖ができるのは雌雄のリーダーに限られている。
 強力な大和達を手に入れられたから、ロスリン城を居城にする決断ができた。

「大丈夫ですよ、母上、完全に魅了魔術で支配下に置いていますから。
 お腹を見せろ、大和、武蔵」

 くぅうううううん、くぅうううううん、くぅうううううん。

 俺の言葉に従って大和と武蔵が動物最大の弱点である腹を見せた。
 下位順位の青炎魔狼達も、大和と武蔵に見習ってお腹を見せている。
 この姿勢は完全服従を証明する姿なので、母上が唖然とされている。
 魔獣の中でもとても強力な青炎魔狼が、十二頭も俺に完全服従しているのだから、当然と言えば当然かもしれない。

「まあ、まあ、まあ、こんな事までできるなんて、ハリー殿は素晴らしいわ。
 やはり皇国子爵程度から嫁を迎える訳にはいきませんわね。
 あ、そうでした、皇太子殿下が即位されたら名誉皇国伯爵に成られるのでしたね。
 最低でも皇国伯爵家から嫁を迎えるか、婿入り先を探さなければいけませんね。
 皇太子殿下と皇国を支えているのはハリー殿ですものね」

 これは困ったな、母上が舞い上がってしまわれている。
 まあ、でも、これはしかたがないかもしれないな。
 一粒種の息子が、皇帝陛下の葬儀から即位式迄の全ての費用を献金したのだ。
 皇国子爵家出身の母からすれば、信じられないくらいの忠義な働きなのだろう。
 まして今回の戦いで、元々領民八千人の男爵家が、領民二万人の本家と、五家合計で三万人の分家を叩き潰して統合したのだから。

「母上、母上に何かあってはいけませんので、青炎魔狼に護衛をさせたいのです。
 爺様や大叔父にも護衛の青炎魔狼をつけたいのです。
 正面からの戦いなら絶対に負けないのですが、影衆を使った暗殺を仕掛けられると、私は撃退できますが、母上や爺様では撃退できません。
 あの国王なら、私を苦しめるために、爺様と母上を狙わせるかもしれません」

「まあ、確かにあの国王ならそれくらいの事はやりかねませんね。
 分かりました、少々怖いですが、青炎魔狼を側に置くことにします」

「ありがとうございます、母上。
 この者達が影衆の侵入に気が付いたら、私に伝わるようになっています。
 伝わったら直ぐに駆けつけますので、御安心ください」

 この世界の魔術は、俺には理解不能な制限が数多くある。
 空間魔術の一種だと思える亜空間創造や魔法袋があるのに、転移魔術がない。
 それどころか、飛行魔術すらないのだから、笑ってしまう。
 アニメで試していた、空中に足場を作って、それを蹴って空中を走るという技も使えなかったのだが、身長よりも低い場所の空気なら固める事ができるのだ。
 誰かが恣意的に空を飛ばせないようにしているとしか思えない。

「ありがとうございます、ハリー殿。
 これで私も安心してこの城に住むことができます。
 侍女達の中には、エレンバラ城に戻った方がいいという者がいたのです」

 ほう、なかなか見る眼のある侍女がいるのだな。
 エクセター侯爵を敵に回した事で、影衆の事を思いついたのだろう。

「そうですね、この子達がいなければ、エレンバラ城に戻って頂いていました。
 ですがもう大丈夫です、この城でお寛ぎください。
 バルコニーからは、美しいプランケット湖を眺めることができます。
 そうだ、一緒に眺めませんか、母上に聞きたい事があったのです」

「まあ、なんでしょうか、私にハリー殿にお教えするような事がありましたか」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...