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第一章

第11話:インブリードとアウトブリード

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 皇紀2213年・王歴217年・春・エレンバラ王国男爵領

 俺は満四歳、当年とって五歳になったが、相も変わらず勉学の日々だ。
 祖父と母に色々と教え続けてもらっているのに、まだ色々と理解できない。
 そこで一度貴族の立場からではなく影衆の立場から話しを聞くことにした。
 立場が違えば見えるモノが全く違うのだと痛感した。
 目から鱗が落ちるとはこの事なのだと強く思うほどだった。
 お陰で今まで疑問に思っていた事の一つが、よく理解できた。

「それでは、血が近過ぎると強い魔力が得られないのだな」

「はい、それがよく分かるのが皇家と皇国貴族でございます。
 ずっと血が近しい選帝侯家や皇国貴族家と婚姻を結び続けた結果、今の皇族にはほとんど魔力がありません。
 もし血の近しい婚姻が魔力を強めるのなら、皇家や選帝侯家から飛び抜けて魔力の強い子が産まれているはずでございます」

「だから、人殺しと蔑まれるほど野蛮だった王家や王家貴族の魔力が高いのか」

「はい、最初の頃の王国貴族は、地方の平民の中から生まれた魔力持ちでした。
 ですが王家や王家貴族も皇家に真似て、血統を重んじるようになりました。
 その影響で徐々に魔力の強い子が生まれ無くなっております。
 それが今の王家の凋落につながっているのです。
 その魔力の弱い王子達のなかでも、正室からよりも側室や妾から、多少は魔力の強い子が産まれてしまいます。
 それがお家騒動につながっているのでございます」

 なるほどね、王家が有力貴族家の後継問題に介入しているから、多くの有力貴族家で後継者争いがあるのだと思っていたが、それだけではなかったのだな。
 本来魔力が強い者が高い地位を得るはずの世界で、魔力の低い者が高位を得ているのが、この世界が戦乱に満ちている根本的な理由なのだな。

「影衆が下手な貴族よりも魔力が多いのは、家柄に関係なく結婚するからか」

「それもございますが、魔力量が少なく魔術の技が未熟な者に影の仕事は務まりませんので、頭領の息子だからと言って跡目が継げる訳ではありません。
 息子が不熟ならば、娘に養子を迎えるのが本当に影衆というものです。
 例え養子となる者が奴隷の子供であろうとです」

 それは、家柄を重視しだしたアフリマン衆を批判しているのかな。
 まあ、いい、それは他人事だ、俺に直接関係する事ではない。

「では俺は、血縁関係のない魔力の多い女を妻に迎えた方がいいという事か。
 再従姉のエマでは、どれほど魔力が多くても駄目だと言う事だな」

「申し上げ難い事ではございますが、その通りでございます。
 それに加えて諫言させていただければ、御母堂様の縁で皇国貴族を妻に迎えたり、王家貴族同士の婚姻で血の濃くなった家から妻を迎えたりすることも、お止めになる方がいいと思います」

 皇国貴族出身である事を誇りに思われている母には言い難いな。
 王家貴族同士の婚姻で同盟を築こうとしている祖父にも言い難い。
 だが俺は、今回の件で領内に入ってきた、五百人もの影衆が放つ魔力を実際に肌で感じている。

 あの魔力量を知ってしまったら、もう血の濃い結婚はできない。
 少なくとも子供を作らない政略結婚でしか血の濃い結婚はできない。
 魔力の強い子供を望むのなら、血の濃くなっていない女性から妻を選ぶべきだ。
 エマは俺の義姉としてどこかの貴族家に嫁がせるか、分家させて血縁関係のない強い魔力の婿を迎えさせた方がいいな。

「本当に言い難い事を言ってくれるな」

「申し訳ありません」

「本当に申し訳ないと思っているのなら、俺の妻になる女性を探してくれ。
 血が濃くない、魔力の多い女性だ」

「本当に宜しいのですか、男爵閣下」

「構わない、どうせ今直ぐ妻に迎える訳ではない、早くても十年は先の話しだ。
 十年以内に、爺様にも母上に文句を言えないくらいの力をつけてみせる。
 お前が当家で力をつけて重臣になってくれていれば、奴隷の子供であろうと、お前の養女として妻に迎えることができる」

「承りました、今のうちからできる限り魔力の強い幼女を集めておきます」
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