異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全

文字の大きさ
上 下
10 / 94
第一章

第9話:製紙

しおりを挟む
 皇紀2212年・王歴216年・秋・エレンバラ王国男爵領

「男爵閣下、凄いです、他の誰にもこのような事はマネできません」

 再従姉のエマが手放しに褒めてくれる。
 その褒め方に嘘や誤魔化しがないので、とてもうれしく思ってしまう。
 確かに、俺以外の誰にもマネできない事だという自負はある。
 今までのやりかたでは、紙をすくのに随分と手間がかかっていた。

 だから獣皮紙ほどではないが、植物紙もかなり高価なものだった。
 だが俺が水車を利用して原材料の楮などを砕く事にしたので重労働が減った。
 だから使う材料によっては結構紙の制作費が下がってきたのだ。
 その安価に作れる紙を売る事で、我が家の収入は鰻登りで上昇している。

「我が領地は渓谷にあるからな、水を利用しない手はないだろう」

 俺が水車を動力として利用した事は画期的だった。
 精米はもちろん穀物の製粉、楮などの紙の原料を潰す事に水車を利用したのだ。
 これまではそれらの重労働を全て人力でやっていた。
 だから農業や副業で忙しい農民には精米に手間をかけられず、不味い玄米を食べていたのだが、これで白米を食べられるようになった。

 米を手に入れられない者は麦を食べていたのだが、そんな貧しい者は当然製粉する人手や財力がないので、パンを焼く事などできず、大麦を粥にして食べていた。
 今は領民も豊かになって、小麦のパンを食べられるようになっている。
 できれば領民全員を精米した白米を食べられるようにしてやりたい。
 ビタミンの不足は糠漬けを食べるようにすれば防げる。
 全ての領民が美味しい物をお腹一杯食べられるようにするために、今は普通の材木を砕いて紙を作れないか実験している段階だ。

「はい、男爵閣下の申される通りです。
 私も頑張って、一日でも早くお役に立てるようになります」

 祖父と母がそんな事を言うエマを微笑ましく見守っている。
 祖父は嫁に出した叔母の事を思っているのだろう。
 嫌でも口惜しくてもエクセター侯爵の家臣に嫁がせるしかなかった叔母の事を。
 母は男の俺しか子供がいないから、エマを娘のように思っているのかな。
 一族出身の側近候補ではあるが、人質でもあるから、余り情を持ってもらっては困るのだが、俺も妹のように思い始めているからしかたがないな。

「それでどうするのだ、ハリー。
 今回もヴィンセント子爵家を通して皇帝陛下に献上するのか。
 離宮におられる国王陛下には俺から献上していいのだな」

 祖父が俺に今後の事を確認してくるが、確かに急いだほうがいいだろう。
 王家は敵対しているカンリフ騎士家と和解しようとしているようだ。
 カンリフ騎士家は首都を占拠し、王国の内臣を使って国政を牛耳っているが、王家を滅ぼす気はないようだ。
 その事を理解したのか、王家の内臣がカンリフ騎士家との和解に動いている。

 国王を傀儡にする心算なら、歴史上よくある話だ。
 同じくよくある前王朝を根絶やしにするよりはずっといい。
 俺を見ろ、俺を、上手に傀儡を演じるではないか。
 上手に傀儡を演じて、周りに実権を持っていないと思わせるのは難しいのだぞ。

 国王が上手に傀儡を演じることができずに、カンリフ騎士家に邪魔だと思われるような事があれば、国王はカンリフ騎士家に暗殺されるだろう。
 ふん、いい気味だ、とっとと殺されるがいい。
 我が家の家督に介入した事を忘れていないからな、国王。
 国王のプライドと欲望をして、暴走するように誘惑してやろうか。

「そうですね、最高級の楮紙と普及用のわら半紙を献上させていただきましょう。
 王家も皇家もたくさん紙を使われるでしょうからね」

 皇家は儀式や記録を残すのに紙が必要だろう。
 国王はカンリフ騎士家討伐の密書を書くのに紙が必要だろう。
 わら半紙は覚書に使ってくれればいい、木簡よりかさばらないからな。
 両家が使ってくれれば我が家の紙の価値が高まる。
 同じ品質でもイメージしだいで高値で売ることができる。
 以前も松脂石鹼と織物を王家と皇家に献上する事でブランドイメージを良くした。

 古くからある名産地を押しのけて、新興産地が利益を得るにはイメージが大切だ。
 国王が我が家に亡命してきているのだから、徹底的に利用させてもらう。
 王家が首都に戻ったら、利用できなくなるかもしれないからな。
 国王が王都に戻る前に急いで戦力の補充を行わなくてはいけない。
 国王が首都に戻ってしまったら、ロスリン伯爵家が攻め込んでくるかもしれない。
 魔獣紙と魔晶石を組み合わせた攻撃魔術陣を用意しておくべきだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...