上 下
5 / 94
第一章

第4話:家督継承

しおりを挟む
 皇紀2210年・王歴214年・秋・教会ベリアル教団の自由都市

「国王陛下、エレンバラ男爵家の当主、ハリーでございます」

 祖父が俺を国王に紹介するが、これは家督継承のための大切な儀式の一環なのだ。
 まだ二歳に過ぎない俺が男爵を継ぐのだから、異例な継承式になる。
 周囲にいる人間は、全員俺を傀儡だと思うだろう。
 傀儡だと思われてもいい、生き延びられればそれで十分だ。
 母の実家に行って殺されるのも、叔父に殺されるのも嫌だからな。

「ふむ、事前に色々と話しあったが、本当にいいのだな、宮中伯」

 国王が祖父の事を宮中伯と呼んでいる。
 祖父は前国王時代に国王の側近を務めていて、とても信頼されていたらしい。
 だからこそ、二歳の俺を男爵家の当主にするような無理を通せた。
 実際問題、俺が当主になる事に関しては色々ともめたらしい。
 父には四人も弟がいて、全員が王家に仕えているのだ。
 その誰が男爵を継いでも、国王にとっては側近が男爵家を支配することになる。
 だからこんな暗に叔父の誰かに家督を交代させろという謎かけをしているのだ。

「はい、ハリーが当主となり私が後見する。
 これが一番国王陛下のお力になれる方法でございます」

 ありがたい事に、祖父が力強く断言してくれる。
 若き国王もこれ以上は何も言えないようだが、まあ、それも当然だろう。
 今年の夏頃に首都を占拠している有力地方騎士家と戦ったが、ぼろ糞に負けてしまい、今も首都を放り出してこの自由都市に逃げて来ている状態だ。
 こんな状態で先代国王の忠臣の願いを退けて、敵に寝返られてしまったら、亡命先の近くに敵の手先を生み出してしまう事になるのだから。

「うむ、宮中伯がここまで断言するのだ、もうお前達も何も申すな。
 ジャック達も納得している事に口出しして、大切な味方の家中を争わせるような事をするのではないぞ」

 先祖や自分がやってきた事を棚に上げてよく言う。
 兄弟や叔父甥の間で王位を争い国中に戦乱を広げたうえに、勝ち残るために貴族家に空約束を連発する。
 ようやく勝ち残って王家の内輪もめを終わらせたと思ったら、味方につけるために与えた特権で強くなった有力貴族家の家督継承に口出しをする。
 その所為で有力貴族内でも家督を争う戦争が起こってしまう。
 そんな事を延々と二百年以上繰り返すから、この国から戦いが無くならないのだ。
 今回も本当はお前がエレンバラ男爵家の家督継承に口出ししたのだろうが、糞王!

「「「「「はっ」」」」」

 国王に側近達が一斉に礼をとるが、叔父達は苦々しい表情をしている。
 やはり国王が家督継承に嘴を入れてきたのだな。
 俺はこの事を絶対に忘れないからな。
 俺は受けた恩も忘れないが、やられた事も忘れない性格なのだ。
 いつか必ず報復してやるから、覚悟しておけよ、糞王。 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...