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5話大魔王エーミール視点

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 ひとめ惚れしてしまった!
 たかが人間の娘に、心を奪われてしまった。
 情けないと思うと同時に、この世界に生まれいでて四十九億九千四百二十八万七千二百四十九年、初めて恋を知った!
 まあ、初めての感情なので、絶対ではないが、恋だと思う。

 今まで見眼麗しい神や悪魔、神使や聖獣には数えきれないほど会った。
 精霊や妖精、魔族や魔獣、聖龍や邪龍ともだ。
 人間や獣とも数多会ってきた。
 だが恋する事など一度もなかった。
 だがこの生贄娘に会ったとたん、恋したという確信を得たのだ!

 だが、大魔王たる朕が、人間ごときに恋したなどと認めるわけにはいかん。
 配下の悪魔や魔族に対して示しがつかない。
 生贄娘テレーザが朕に恋をして、あまりに熱烈に求婚するので、しかたなく朕が受け入れるという体裁を整える必要がある。

 そのための誘導など簡単なモノだ。
 朕の力をもってすれば、人間の心など簡単に読める。
 生贄娘テレーザが考えている、可愛らしい策謀も伝わってくる。
 あまりに可愛らしい策謀に、頭から撫でまわしてやりたくなるが、ぐっと我慢しなければいない。

 どうしようもなく魅かれる、なんともいえないフェロモンに、この場で押し倒してしまいたくなるが、グッと我慢する。
 そんな獣のような行為は、高貴なる大魔王にはふさわしくない。
 無意識に手を出して撫でまわしたくなる心を押し止めるのに、大魔王たる朕の全身全霊の精神力が必要になってしまう。

 朕をここまで誘惑するとは!
 テレーザのフェロモンは侮りがたい!
 このままずっとテレーザのフェロモンを感じていたいが、これ以上同室で息を吸っていると、朕の精神力でも劣情を抑え込めない。
 仕方がないので魔力で部屋を仕切り、テレーザのフェロモンが朕の方に流れてこないようにしたが、心がかきむしられるような渇望を覚えてしまう!

 なんとか我慢を重ねながら、テレーザの思考を朕の都合がいい方向に誘導し、常に朕がテレーザと共にいられるようにする。
 可愛いテレーザを陥れた人間は八つ裂きにしても飽き足らないが、矮小な人間など鼻息ひとつで国ごと亡ぼすことができるから、殺すよりもテレーザが朕に恋するように誘導する役に立ってもらう。

「では朕が直々に同行してやろうではないか。
 側にいなければ力加減もできぬ。
 朕の力では、鼻息ひとつで国ごと人間を吹き飛ばすことも、指先ひとつで国を海底に沈める事も可能じゃ。
 さすがに同行しておる生贄娘を忘れて力加減を間違う事もなかろう。
 その場その場で朕に願いを言うがよい」

 ああ、これからはずっとテレーゼと一緒に過ごせる!
 テレーゼの美しい声でお願いされるのだ!
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