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第一章
第78話:それぞれの想い
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「移住予定の世界を見回って来てくれ」
オードリーとグレアムはルーパスにそう言われた。
二人にだってそれが最悪に備えた事前避難だというのは分かっていた。
魔族の戦いで激減した人族。
神々との戦いに敗れても滅亡させるわけにはいかない。
その人族でも魔術を使えない遊牧民を、各種職人と共にまだ草と苔しか生えていない魔力のない世界に家畜と共に移民させた。
それなりに土地が肥えている世界には、使役動物と共に農民を送ったが、彼らにも各種職人を伴わせて人族の技術や文化学問が絶えないようにした。
もちろん魔力の豊富な世界にも人族を避難させたが、その世界には魔術の才能がある人間を最優先に移民させた。
人界に魔力を送れないくらい遠方の世界で、普段は労働用使い魔しか送れない世界だから、当然転移には時間の流れを考慮しなければいけない。
別の世界に転移する以上、遠ければ遠いほど元の人界とは時間差が生まれる。
魔界に行ったルーパスがいまだに後悔するような家族間の時の流れの違い。
別世界に避難したら、神々を撃退して人界に戻れるとしても、時間の流れの違いによる悪影響を覚悟しなければいけない。
オードリーとグレアムが戻ってきたらルーパスとミネルバが死んでいた。
ルーパスとミネルバがオードリーとグレアムに会いに行ったら、もう孫や曾孫の代になっていた。
そんな事が十分あり得るのだ。
「父上、母上、避難する人々を送り終えました」
「義父上、義母上、護衛と連絡用の使い魔も送り終えました」
「まあ、オードリー、グレアム、何故貴方達が残っているの。
貴方達も向こうに避難することになっていたではありませんか。
今からでも直ぐに避難しなさい」
「嫌です、絶対に嫌です。
何度も何度も嫌だと申し上げたではありませんか。
もう二度とあのような想いをするのは嫌だと申し上げたではありませんか。
それに私は避難するとは言っていません。
家族が離れ離れになるのは絶対に嫌なのです」
「そんな事を言っても、グレアム、貴男からも説得しなさい」
「義母上、私はオードリーの願いを最優先します。
オードリーが死ぬも生きるも家族一緒がいいというのなら、そうします」
「ルーパス、貴男からも言ってやってください」
「ミネルバ、この件に関しては俺には何も言う資格がない。
オードリーが一人残される方が死ぬよりも辛いというのなら、家族一緒に戦って全員が生き延びる道を探すべきだろう」
「もう、もう、もう、オードリーはもう一人ではありませんよ。
グレアムも子供達もいるというのに。
妹と弟も護ってやって欲しいと思っていたのに。
二人も子供を産んだというのに、いつまでも甘えたで困ったものですわ」
オードリーとグレアムはルーパスにそう言われた。
二人にだってそれが最悪に備えた事前避難だというのは分かっていた。
魔族の戦いで激減した人族。
神々との戦いに敗れても滅亡させるわけにはいかない。
その人族でも魔術を使えない遊牧民を、各種職人と共にまだ草と苔しか生えていない魔力のない世界に家畜と共に移民させた。
それなりに土地が肥えている世界には、使役動物と共に農民を送ったが、彼らにも各種職人を伴わせて人族の技術や文化学問が絶えないようにした。
もちろん魔力の豊富な世界にも人族を避難させたが、その世界には魔術の才能がある人間を最優先に移民させた。
人界に魔力を送れないくらい遠方の世界で、普段は労働用使い魔しか送れない世界だから、当然転移には時間の流れを考慮しなければいけない。
別の世界に転移する以上、遠ければ遠いほど元の人界とは時間差が生まれる。
魔界に行ったルーパスがいまだに後悔するような家族間の時の流れの違い。
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オードリーとグレアムが戻ってきたらルーパスとミネルバが死んでいた。
ルーパスとミネルバがオードリーとグレアムに会いに行ったら、もう孫や曾孫の代になっていた。
そんな事が十分あり得るのだ。
「父上、母上、避難する人々を送り終えました」
「義父上、義母上、護衛と連絡用の使い魔も送り終えました」
「まあ、オードリー、グレアム、何故貴方達が残っているの。
貴方達も向こうに避難することになっていたではありませんか。
今からでも直ぐに避難しなさい」
「嫌です、絶対に嫌です。
何度も何度も嫌だと申し上げたではありませんか。
もう二度とあのような想いをするのは嫌だと申し上げたではありませんか。
それに私は避難するとは言っていません。
家族が離れ離れになるのは絶対に嫌なのです」
「そんな事を言っても、グレアム、貴男からも説得しなさい」
「義母上、私はオードリーの願いを最優先します。
オードリーが死ぬも生きるも家族一緒がいいというのなら、そうします」
「ルーパス、貴男からも言ってやってください」
「ミネルバ、この件に関しては俺には何も言う資格がない。
オードリーが一人残される方が死ぬよりも辛いというのなら、家族一緒に戦って全員が生き延びる道を探すべきだろう」
「もう、もう、もう、オードリーはもう一人ではありませんよ。
グレアムも子供達もいるというのに。
妹と弟も護ってやって欲しいと思っていたのに。
二人も子供を産んだというのに、いつまでも甘えたで困ったものですわ」
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