そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全

文字の大きさ
上 下
58 / 91
第一章

第58話:ルーパスと大魔王3

しおりを挟む
「生贄とオードリーの魔力の半分が入った守護石を持ってきたぞ。
 直ぐにミネルバを蘇生しろ」

 大魔王は思わず笑ってしまいそうになっていた。
 できるだけ早く済ませて人界に帰りたいルーパスが、とても早口だったからだ。
 少しでも早く交渉を終わらせて、オードリーを一人にする日数を短くしたい父親の心情が駄々洩れになっていたからだ。

 つい本来持ってるいたずら心がルーパスを揶揄いたくなってしまう。
 交渉を引き延ばして、オードリー所に早く戻りたいルーパスの苦渋に満ちた顔が見たくなるが、グッと我慢した。
 そんな事をやってもルーパスの恨みを買うだけで、百害あって一利もない。
 神々と戦う可能性を考えれば、最低でもルーパスを敵に回さない言動が必要だし、できれば恩を売って味方に加えたいのだ。

「分かった、生贄どもを巨大魔法陣に中に追い込め」

 大魔王は簡単に言うが、五千万もの人間を入れるために必要な土地は半端な広さではないのだが、巨大魔法陣は大陸に匹敵する広さになっていた。
 だが広さはあっても五千万もの人間をそう簡単に移動させられるものではない。
 だが無理を承知でやらなければいけない。
 大魔王もちゃんと必要な準備をしていてくれたのだ。
 しかも人界とは時間の流れが全く違うから、限られた短時間でやってくれたのだ。

「さて、少しでも魔力を節約するために呪文を唱えるが、結構長々とした呪文になるから、ルーパスは一旦オードリーの元に帰っていろ。
 呪文を唱え終わっても、直ぐに死んだ人間の身体が完全に再生されて魂を呼び戻せるわけではない。
 そんな時間を魔界で待っていたら、人界では何十年も経ってしまうだろう。
 これと同じ巨大魔法陣を人界でも描いて呪文を唱えてみろ。
 必要な魔法陣と呪文はこの魔導書にかいてある。
 魔力はルーパスが人界中に描いた魔法陣で集めればいい、一年ほどで溜まる」

「騙したな、大魔王。
 ミネルバを蘇らせると言ったのは嘘だったのだな」

「嘘ではないぞ、ルーパス。
 この巨大魔法陣と莫大な魔力を使えば死んだ人間を蘇らせるのは確かだ。
 この通り余が実際にやっておるではないか。
 だが、蘇らせるのに必要な時間が結構長いのだよ。
 その時間の間、蘇らせたい人間を想い続けて魂よ呼び寄せないといけない。
 ルーパスにそんな長時間魔界に留まることができるのか。
 せっかくミネルバを蘇らせても、会わせたい娘のオードリーん方が先に死んでしまうぞ、それでもいいのか」

「それは……
 だが約束通り生贄も魔力も持ってきたではないか。
 だったらその魔力を使って蘇らせるべきだろう」

「はて、余はミネルバを蘇らせる代価を要求しただけで、必要な素材の事は自弁だと思って話をしていたのだがな」

「詐欺だ、最初から騙す心算の言い訳だ」

「余は魔族の大魔王だぞ、ルーパスも騙される可能性が高いと思っていたから、人界中に巨大魔法陣を描いて魔力を集めていたのであろう。
 余がこの程度の利を確保するくらい計算のうちであろう。
 余にもどれほど悪辣非道な手段を使っても蘇らせたい者がいるのだよ」

「……分かった、これ以上は時間の無駄だな。
 ミネルバを蘇らせたら改めてキッチリと話を付けよう」
しおりを挟む
感想 159

あなたにおすすめの小説

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

処理中です...