56 / 91
第一章
第56話:人心掌握術
しおりを挟む
「どうぞ、ルーパス様」
フリデリカは恐ろしくできる少女だった。
ルーパスに顔色を見て、オードリーに会いたくても会うのが申し訳ないと思う心情を見事に見抜き、的確に会うように勧めるべきタイミングに案内したのだ。
それを見事だとほめるべきなのか、そんな風に顔色を見抜かなければ生き残れなかったフリデリカを哀れと思うべきなのか……
「おお、オードリー、ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ。
こんな不甲斐ない父親でごめんよ、本当にごめんよ。
どれほどの犠牲を払ってでも、お母さんを蘇らせてあげるからね。
それで許してくれ、オードリー」
オードリーに詫びるルーパスの姿を見るフリデリカは複雑な心境だった。
物心つく前に両親を亡くし、乞食のような生活をしてきたフリデリカだ。
村人の慈悲に縋りつくしか生き残る術のなかったフリデリカだ。
父親の無償の愛を目の前で見せつけられると、とても複雑な心境になってしまう。
自分を助け召し抱えてくれたルーパスと、その愛娘であるオードリーに尽くさなければいけないという思いと同時に、ほんの少しだけオードリーに意地悪したいと思ってしまう、相反する想いを抱いてしまっていた。
「フリデリカ、よくオードリーを世話してくれた。
これからもよろしく頼むぞ」
「お任せください、ルーパス様」
「これは給金とは別によく尽くしてくれるフリデリカへのご褒美だ。
単なる指輪としても美しいが、中に下位の風精霊が入っている。
主人はフリデリカにしてあるから、何かあれば使いなさい。
以前貸し与えた守護石と連動するようにしてあるから、よほどの敵でなければフリデリカを護ってくれるだろう」
「ありがとうございます、ルーパス様」
ルーパスはフリデリカの想いを察して心を取ろうとしたわけではない。
今のルーパスにはそんな風に他人の心を察する余裕など全くない。
グレアムやフリデリカには三カ月もの長い時間だったが、ルーパスにはほんの数時間の事で、大失態を犯した直後で精神的に一杯一杯なのだ。
だから心からフリデリカに感謝しており、その気持ちを素直に表しただけだった。
だが人の顔色を的確に見抜けるフリデリカにはそのルーパスに態度が一番だった。
自分のやった事を認めてくれて、言葉に出して手放しで褒めてくれた上に、命を心配して王侯貴族すら持っていないような宝物をプレゼントしてくださる。
例えそのなかに自分の娘も一緒に護ってくれという想いがある事を理解していても、感動して命懸けで仕えたいと思うには十分な動機となった。
「身命を賭してオードリー様にお仕えさせていただきます」
フリデリカは恐ろしくできる少女だった。
ルーパスに顔色を見て、オードリーに会いたくても会うのが申し訳ないと思う心情を見事に見抜き、的確に会うように勧めるべきタイミングに案内したのだ。
それを見事だとほめるべきなのか、そんな風に顔色を見抜かなければ生き残れなかったフリデリカを哀れと思うべきなのか……
「おお、オードリー、ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ。
こんな不甲斐ない父親でごめんよ、本当にごめんよ。
どれほどの犠牲を払ってでも、お母さんを蘇らせてあげるからね。
それで許してくれ、オードリー」
オードリーに詫びるルーパスの姿を見るフリデリカは複雑な心境だった。
物心つく前に両親を亡くし、乞食のような生活をしてきたフリデリカだ。
村人の慈悲に縋りつくしか生き残る術のなかったフリデリカだ。
父親の無償の愛を目の前で見せつけられると、とても複雑な心境になってしまう。
自分を助け召し抱えてくれたルーパスと、その愛娘であるオードリーに尽くさなければいけないという思いと同時に、ほんの少しだけオードリーに意地悪したいと思ってしまう、相反する想いを抱いてしまっていた。
「フリデリカ、よくオードリーを世話してくれた。
これからもよろしく頼むぞ」
「お任せください、ルーパス様」
「これは給金とは別によく尽くしてくれるフリデリカへのご褒美だ。
単なる指輪としても美しいが、中に下位の風精霊が入っている。
主人はフリデリカにしてあるから、何かあれば使いなさい。
以前貸し与えた守護石と連動するようにしてあるから、よほどの敵でなければフリデリカを護ってくれるだろう」
「ありがとうございます、ルーパス様」
ルーパスはフリデリカの想いを察して心を取ろうとしたわけではない。
今のルーパスにはそんな風に他人の心を察する余裕など全くない。
グレアムやフリデリカには三カ月もの長い時間だったが、ルーパスにはほんの数時間の事で、大失態を犯した直後で精神的に一杯一杯なのだ。
だから心からフリデリカに感謝しており、その気持ちを素直に表しただけだった。
だが人の顔色を的確に見抜けるフリデリカにはそのルーパスに態度が一番だった。
自分のやった事を認めてくれて、言葉に出して手放しで褒めてくれた上に、命を心配して王侯貴族すら持っていないような宝物をプレゼントしてくださる。
例えそのなかに自分の娘も一緒に護ってくれという想いがある事を理解していても、感動して命懸けで仕えたいと思うには十分な動機となった。
「身命を賭してオードリー様にお仕えさせていただきます」
115
お気に入りに追加
4,741
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~
ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。
長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。
心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。
そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。
そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。
レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。
毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。
レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく――
これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。
※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】私の婚約者はもう死んだので
miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」
結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。
そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。
彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。
これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる