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第一章
第44話:グレアムとルーパス2
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結局誰何する事はできなかった。
口が強張ってしまって全く言葉を発することができなかった。
だが心身に叱咤激励して何とか動く事はできた。
吸血女をも凌ぐ素早さでオードリー嬢に翔け寄ろうとする謎の男。
グレアムは謎の男とオードリー嬢の間に割って入ることができた。
一方ルーパスは平常心を失ってはいたが驚く事はできた。
ルーパスも自分が無意識に放っている威圧の強さは本能的に理解していた。
無念無想の境地でも全てを悟って戦うことができるのがルーパスだった。
そうでなければとうの昔に野に骸をさらしていた。
そんなルーパスが驚愕するほどの克己心でグレアムは威圧の呪縛から逃れた。
守護石の加護を受けているとはいえ感嘆に値する事だった。
「邪魔だ!」
だが感嘆に値する克己心や騎士道精神も今のルーパスには腹立たしいだけだった。
単なる八つ当たりや嫉妬なのかもしれないが、自分が何もしてあげれなかったオードリーを護る人間が目の前にいる。
美しく成長した娘を助けようとする若い騎士が目の前にいる。
反射的に魔力を放ってしまっていた。
明確な殺意があったわけではない。
あれば確実に殺せる魔術を放っていただろう。
自分を含めた世の中全てに対する怒りとグレアムに対する嫉妬。
それが無意識に強力な魔力を放ってしまうという行為になってしまった。
グレアムと殺すとか叩き潰すとかではなく、目の前から吹き飛ばすという形で。
グレアムが一瞬で吹き飛んだ。
ルーパスも無意識に後ろにいるオードリーに被害を与えたくないと思ったのだろう、ルーパスから見て左にグレアムが吹き飛んだ。
このまま一気にオードリーを助け起こして魔界に転移する。
そして人界の人間を全て生贄にする。
大魔王の望む魔力を渡してミネルバを蘇らせてもらう心算だった。
「な、くそ」
だがそうはいかなかった。
グレアムに続いて軍馬たちがオードリーを護ろうとして割って入ってきた。
平常心を失っていたルーパスだが、けなげな行動をする馬は攻撃できなかった。
グレアムを吹き飛ばした事やほんの少しだが時間が経ったことで、わずかに冷静さを取り戻していたのだ。
ルーパスも長く魔族と戦ってきた。
その間には軍馬を連れた騎士とも一緒に戦った。
見栄っ張り、虚栄心の強い腐れ勇者は早々に馬を手に入れて騎乗していた。
だから本来馬がどれほど臆病な性格なのかよく知っていた。
その本能を矯正された軍馬でも、主人以外は護らない事もよく知っていた。
その馬が主人ではなくオードリーを護ろうとしていたのだ。
頭から冷水を浴びせられたくらい一気に冷静になれた。
オードリーを命懸けで護ろうとしている馬は傷つけられないと。
だがここでまたややこしくなる事が起こってしまった。
口が強張ってしまって全く言葉を発することができなかった。
だが心身に叱咤激励して何とか動く事はできた。
吸血女をも凌ぐ素早さでオードリー嬢に翔け寄ろうとする謎の男。
グレアムは謎の男とオードリー嬢の間に割って入ることができた。
一方ルーパスは平常心を失ってはいたが驚く事はできた。
ルーパスも自分が無意識に放っている威圧の強さは本能的に理解していた。
無念無想の境地でも全てを悟って戦うことができるのがルーパスだった。
そうでなければとうの昔に野に骸をさらしていた。
そんなルーパスが驚愕するほどの克己心でグレアムは威圧の呪縛から逃れた。
守護石の加護を受けているとはいえ感嘆に値する事だった。
「邪魔だ!」
だが感嘆に値する克己心や騎士道精神も今のルーパスには腹立たしいだけだった。
単なる八つ当たりや嫉妬なのかもしれないが、自分が何もしてあげれなかったオードリーを護る人間が目の前にいる。
美しく成長した娘を助けようとする若い騎士が目の前にいる。
反射的に魔力を放ってしまっていた。
明確な殺意があったわけではない。
あれば確実に殺せる魔術を放っていただろう。
自分を含めた世の中全てに対する怒りとグレアムに対する嫉妬。
それが無意識に強力な魔力を放ってしまうという行為になってしまった。
グレアムと殺すとか叩き潰すとかではなく、目の前から吹き飛ばすという形で。
グレアムが一瞬で吹き飛んだ。
ルーパスも無意識に後ろにいるオードリーに被害を与えたくないと思ったのだろう、ルーパスから見て左にグレアムが吹き飛んだ。
このまま一気にオードリーを助け起こして魔界に転移する。
そして人界の人間を全て生贄にする。
大魔王の望む魔力を渡してミネルバを蘇らせてもらう心算だった。
「な、くそ」
だがそうはいかなかった。
グレアムに続いて軍馬たちがオードリーを護ろうとして割って入ってきた。
平常心を失っていたルーパスだが、けなげな行動をする馬は攻撃できなかった。
グレアムを吹き飛ばした事やほんの少しだが時間が経ったことで、わずかに冷静さを取り戻していたのだ。
ルーパスも長く魔族と戦ってきた。
その間には軍馬を連れた騎士とも一緒に戦った。
見栄っ張り、虚栄心の強い腐れ勇者は早々に馬を手に入れて騎乗していた。
だから本来馬がどれほど臆病な性格なのかよく知っていた。
その本能を矯正された軍馬でも、主人以外は護らない事もよく知っていた。
その馬が主人ではなくオードリーを護ろうとしていたのだ。
頭から冷水を浴びせられたくらい一気に冷静になれた。
オードリーを命懸けで護ろうとしている馬は傷つけられないと。
だがここでまたややこしくなる事が起こってしまった。
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