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第一章
第43話:グレアムとルーパス
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「オードリー」
ルーパスの絶叫が森中に響いた。
オードリーの危機を知り、大魔王から真実を伝えられ、勇者達や大魔王の足止めされたルーパスは、苛立ちと焦燥感で平常心を失っていた。
魔界から人界に戻り、探知魔法でオードリーの居場所を確かめ、転移魔法で現れたばかりだった。
眼の前には荷車に寝かされたオードリーであろう美しい娘がいる。
オードリーを護るように魔力で加護を受けた騎士と軍馬がいる。
彼らの足元には魔族と人間の混血が斃れている。
いや、二体の混血だけでなく十人の兵士も斃れている。
唖然とした表情で固まる少女もいる。
平常心を失っているルーパスでも大体の事情は分かる。
オードリーだと、いや、守護石が護っているから間違いなくオードリーだ。
オードリーを護るために騎士と軍馬が戦ったのだろう。
だが普通の人間や馬が上級魔族と人間の混血に勝てるはずがない。
オードリーを護るために守護石が人間と馬に加護を与えたのだ。
事情が分かれば普通の親なら娘を護ってくれた騎士や軍馬に感謝する。
だがルーパスは平常心を失っていた。
心の中で色々な気持ちが沸き起こり争っていた。
感謝の気持ちも強いのだが、オードリーを護れなかった罪悪感と劣等感がある。
全ての人間に対する敵愾心復讐心もある。
騎士も軍馬も、いや、全ての人間をぶち殺して滅ぼしてしまいたい激情がある。
何とも表現のしようがない葛藤が渦巻いていた。
「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよオードリー」
だが一番の気持ちは「オードリーを抱きしめたい」だった。
哀しく苦しい想いをさせてしまったオードリーの謝りたいという気持ちだった。
人間を滅ぼしたいという気持ちも、オードリーを護っている騎士に対する嫉妬も、オードリーへの謝罪の想いに比べれば微々たるモノだったのだ。
「なっ!」
グレアムは全く気がつかづ動く事もできなかった。
グレアムは自分の事を過信するような愚か者ではない。
ついさっきも何かの加護がなければ吸血女にも巨躯男にも勝てなかった。
だが今は何かの加護を受けて途轍もない力を得ている実感がある。
その自分が敵かもしれないモノの動きに反応することができなかったのだ。
本当なら厳しく誰何したかった。
何者なのか厳しく問い詰めたかった。
まずは間に入ってオードリー嬢の安全を確保すべきだと思っていた。
だが、全く動くことも話す事もできなくなったいた。
謎の男から発せられる迫力に殺気に金縛りになってしまっていた。
過去最強の敵だと断言できる巨躯男など足元にも及ばない殺気だった。
それでも、全身全霊の精神力を駆使して誰何しようとした。
ルーパスの絶叫が森中に響いた。
オードリーの危機を知り、大魔王から真実を伝えられ、勇者達や大魔王の足止めされたルーパスは、苛立ちと焦燥感で平常心を失っていた。
魔界から人界に戻り、探知魔法でオードリーの居場所を確かめ、転移魔法で現れたばかりだった。
眼の前には荷車に寝かされたオードリーであろう美しい娘がいる。
オードリーを護るように魔力で加護を受けた騎士と軍馬がいる。
彼らの足元には魔族と人間の混血が斃れている。
いや、二体の混血だけでなく十人の兵士も斃れている。
唖然とした表情で固まる少女もいる。
平常心を失っているルーパスでも大体の事情は分かる。
オードリーだと、いや、守護石が護っているから間違いなくオードリーだ。
オードリーを護るために騎士と軍馬が戦ったのだろう。
だが普通の人間や馬が上級魔族と人間の混血に勝てるはずがない。
オードリーを護るために守護石が人間と馬に加護を与えたのだ。
事情が分かれば普通の親なら娘を護ってくれた騎士や軍馬に感謝する。
だがルーパスは平常心を失っていた。
心の中で色々な気持ちが沸き起こり争っていた。
感謝の気持ちも強いのだが、オードリーを護れなかった罪悪感と劣等感がある。
全ての人間に対する敵愾心復讐心もある。
騎士も軍馬も、いや、全ての人間をぶち殺して滅ぼしてしまいたい激情がある。
何とも表現のしようがない葛藤が渦巻いていた。
「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよオードリー」
だが一番の気持ちは「オードリーを抱きしめたい」だった。
哀しく苦しい想いをさせてしまったオードリーの謝りたいという気持ちだった。
人間を滅ぼしたいという気持ちも、オードリーを護っている騎士に対する嫉妬も、オードリーへの謝罪の想いに比べれば微々たるモノだったのだ。
「なっ!」
グレアムは全く気がつかづ動く事もできなかった。
グレアムは自分の事を過信するような愚か者ではない。
ついさっきも何かの加護がなければ吸血女にも巨躯男にも勝てなかった。
だが今は何かの加護を受けて途轍もない力を得ている実感がある。
その自分が敵かもしれないモノの動きに反応することができなかったのだ。
本当なら厳しく誰何したかった。
何者なのか厳しく問い詰めたかった。
まずは間に入ってオードリー嬢の安全を確保すべきだと思っていた。
だが、全く動くことも話す事もできなくなったいた。
謎の男から発せられる迫力に殺気に金縛りになってしまっていた。
過去最強の敵だと断言できる巨躯男など足元にも及ばない殺気だった。
それでも、全身全霊の精神力を駆使して誰何しようとした。
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