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第一章
第40話:旅程12
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グレアムは苦渋の決断を迫られていた。
スタリオンを今直ぐ安楽死させて少しでも早く楽にしてやるか。
助けられるかどうかわからないのに苦痛を我慢させて治癒術師を探すか。
三本足で立たせていると蹄葉炎となり死に至る。
ずっと寝かせていると体重に皮膚耐えらず、人間で言えば床ずれになり死に至る。
激しい痛みで長期間苦しめることになる。
だが早期に治癒術師を探し出せれば助けられる可能性もあるのだ。
ヒン、ヒン、ヒン
バビエカが気遣ってくれる。
グレアムは考えていても無駄だと思い込むことにした。
助けたいか助けたくないか、それが全てだと思い込んだ。
助けたい、助けるためにはどうすべきか、そう思い周りを見た。
多くの死体が転がり馬車が残っていた。
普通では使われない立派な六頭立ての馬車だ。
侯爵家でも六頭立ての馬車の使用は認められていないはずなのだ。
だが六頭立ての馬車なら相当に馬力がある。
重く立派な馬車を牽いていてもかなりの余力があるはずだ。
自分が御者台に乗ってオードリー嬢は馬車で休ませる。
スタリオンを馬車に乗せる事はできないが、荷車なら乗せられる。
馬車と荷車を連結させてスタリオンを運べばいい。
そう思い至ったら暗雲が晴れていくような気分になった。
「あの、ありがとうございます、助かりました」
少女が声をかけてきた。
色々な事があり過ぎてグレアムは少女の事にまで意識が行っていなかった。
「いや、当然の事をしただけだ、お礼を言われるような事じゃない」
「でも、騎士様は命の恩人です」
「いや、べつ、ウッぐっわ」
グレアムもようやく気が抜けたのだろう。
ズタズタになった全身の筋肉から激痛が伝わって来た。
あまりの痛みに思わず苦痛を口に出してしまった。
騎士たる者、女性を前にしてみっともない所を見せてはいけないのに。
「大丈夫ですか、騎士様」
「ああ、大丈夫だよ、ちょっと痛かっただけさ」
そうは言ったもののほとんど力が入らなかった。
これからスタリオンを荷車に乗せないといけないのに。
「何かお手伝いできる事はありませんか」
少女の言葉は渡りに船だった。
普通なら騎士たる者が少女の言葉に甘えたりはしない。
だが今はスタリオンの命がかかっている。
オードリー嬢の事もある。
ここは少女の言葉に甘えることにした。
「ではすまないが、斃した護衛の剣や鎧をはぎ取って馬車に入れてくれないか。
私の剣や鎧が相当痛んでしまっていて修理代が必要なのだ」
騎士としては恥ずべき行為なのだが、最近の旅程でお金の大切さがよく分かった。
なによりもスタリオンを治癒術師に治してもらうには相応の礼金が必要だ。
残念だが今のグレアムにそんな大金はない。
馬車や輓馬を売れば相当の金になるが、オードリー嬢の事を想えば売れない。
そうなると斃した敵のモノをはぎ取って売るしかないのだ。
「はい、喜んでやらせていただきます」
少女は意外と逞しいようだった。
恐れる事なく血塗れの死体から剣や鎧だけでなく衣服まではぎ取り出した。
グレアムは少女の生い立ちが少し気になった。
スタリオンを今直ぐ安楽死させて少しでも早く楽にしてやるか。
助けられるかどうかわからないのに苦痛を我慢させて治癒術師を探すか。
三本足で立たせていると蹄葉炎となり死に至る。
ずっと寝かせていると体重に皮膚耐えらず、人間で言えば床ずれになり死に至る。
激しい痛みで長期間苦しめることになる。
だが早期に治癒術師を探し出せれば助けられる可能性もあるのだ。
ヒン、ヒン、ヒン
バビエカが気遣ってくれる。
グレアムは考えていても無駄だと思い込むことにした。
助けたいか助けたくないか、それが全てだと思い込んだ。
助けたい、助けるためにはどうすべきか、そう思い周りを見た。
多くの死体が転がり馬車が残っていた。
普通では使われない立派な六頭立ての馬車だ。
侯爵家でも六頭立ての馬車の使用は認められていないはずなのだ。
だが六頭立ての馬車なら相当に馬力がある。
重く立派な馬車を牽いていてもかなりの余力があるはずだ。
自分が御者台に乗ってオードリー嬢は馬車で休ませる。
スタリオンを馬車に乗せる事はできないが、荷車なら乗せられる。
馬車と荷車を連結させてスタリオンを運べばいい。
そう思い至ったら暗雲が晴れていくような気分になった。
「あの、ありがとうございます、助かりました」
少女が声をかけてきた。
色々な事があり過ぎてグレアムは少女の事にまで意識が行っていなかった。
「いや、当然の事をしただけだ、お礼を言われるような事じゃない」
「でも、騎士様は命の恩人です」
「いや、べつ、ウッぐっわ」
グレアムもようやく気が抜けたのだろう。
ズタズタになった全身の筋肉から激痛が伝わって来た。
あまりの痛みに思わず苦痛を口に出してしまった。
騎士たる者、女性を前にしてみっともない所を見せてはいけないのに。
「大丈夫ですか、騎士様」
「ああ、大丈夫だよ、ちょっと痛かっただけさ」
そうは言ったもののほとんど力が入らなかった。
これからスタリオンを荷車に乗せないといけないのに。
「何かお手伝いできる事はありませんか」
少女の言葉は渡りに船だった。
普通なら騎士たる者が少女の言葉に甘えたりはしない。
だが今はスタリオンの命がかかっている。
オードリー嬢の事もある。
ここは少女の言葉に甘えることにした。
「ではすまないが、斃した護衛の剣や鎧をはぎ取って馬車に入れてくれないか。
私の剣や鎧が相当痛んでしまっていて修理代が必要なのだ」
騎士としては恥ずべき行為なのだが、最近の旅程でお金の大切さがよく分かった。
なによりもスタリオンを治癒術師に治してもらうには相応の礼金が必要だ。
残念だが今のグレアムにそんな大金はない。
馬車や輓馬を売れば相当の金になるが、オードリー嬢の事を想えば売れない。
そうなると斃した敵のモノをはぎ取って売るしかないのだ。
「はい、喜んでやらせていただきます」
少女は意外と逞しいようだった。
恐れる事なく血塗れの死体から剣や鎧だけでなく衣服まではぎ取り出した。
グレアムは少女の生い立ちが少し気になった。
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