そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全

文字の大きさ
上 下
40 / 91
第一章

第40話:旅程12

しおりを挟む
 グレアムは苦渋の決断を迫られていた。
 スタリオンを今直ぐ安楽死させて少しでも早く楽にしてやるか。
 助けられるかどうかわからないのに苦痛を我慢させて治癒術師を探すか。
 三本足で立たせていると蹄葉炎となり死に至る。
 ずっと寝かせていると体重に皮膚耐えらず、人間で言えば床ずれになり死に至る。
 激しい痛みで長期間苦しめることになる。
 だが早期に治癒術師を探し出せれば助けられる可能性もあるのだ。

 ヒン、ヒン、ヒン

 バビエカが気遣ってくれる。
 グレアムは考えていても無駄だと思い込むことにした。
 助けたいか助けたくないか、それが全てだと思い込んだ。
 助けたい、助けるためにはどうすべきか、そう思い周りを見た。
 多くの死体が転がり馬車が残っていた。
 普通では使われない立派な六頭立ての馬車だ。
 侯爵家でも六頭立ての馬車の使用は認められていないはずなのだ。

 だが六頭立ての馬車なら相当に馬力がある。
 重く立派な馬車を牽いていてもかなりの余力があるはずだ。
 自分が御者台に乗ってオードリー嬢は馬車で休ませる。
 スタリオンを馬車に乗せる事はできないが、荷車なら乗せられる。
 馬車と荷車を連結させてスタリオンを運べばいい。
 そう思い至ったら暗雲が晴れていくような気分になった。

「あの、ありがとうございます、助かりました」

 少女が声をかけてきた。
 色々な事があり過ぎてグレアムは少女の事にまで意識が行っていなかった。

「いや、当然の事をしただけだ、お礼を言われるような事じゃない」

「でも、騎士様は命の恩人です」

「いや、べつ、ウッぐっわ」

 グレアムもようやく気が抜けたのだろう。
 ズタズタになった全身の筋肉から激痛が伝わって来た。
 あまりの痛みに思わず苦痛を口に出してしまった。
 騎士たる者、女性を前にしてみっともない所を見せてはいけないのに。

「大丈夫ですか、騎士様」

「ああ、大丈夫だよ、ちょっと痛かっただけさ」

 そうは言ったもののほとんど力が入らなかった。
 これからスタリオンを荷車に乗せないといけないのに。
 
「何かお手伝いできる事はありませんか」

 少女の言葉は渡りに船だった。
 普通なら騎士たる者が少女の言葉に甘えたりはしない。
 だが今はスタリオンの命がかかっている。
 オードリー嬢の事もある。
 ここは少女の言葉に甘えることにした。

「ではすまないが、斃した護衛の剣や鎧をはぎ取って馬車に入れてくれないか。
 私の剣や鎧が相当痛んでしまっていて修理代が必要なのだ」

 騎士としては恥ずべき行為なのだが、最近の旅程でお金の大切さがよく分かった。
 なによりもスタリオンを治癒術師に治してもらうには相応の礼金が必要だ。
 残念だが今のグレアムにそんな大金はない。
 馬車や輓馬を売れば相当の金になるが、オードリー嬢の事を想えば売れない。
 そうなると斃した敵のモノをはぎ取って売るしかないのだ。

「はい、喜んでやらせていただきます」

 少女は意外と逞しいようだった。
 恐れる事なく血塗れの死体から剣や鎧だけでなく衣服まではぎ取り出した。
 グレアムは少女の生い立ちが少し気になった。
しおりを挟む
感想 159

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

処理中です...