そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全

文字の大きさ
上 下
38 / 91
第一章

第38話:旅程10

しおりを挟む
 グレアムは足を踏ん張るための体重移動しつつ、形だけ剣を突き出した。
 吸血女が大切にしているであろう顔に向かって剣を突き出した。
 グレアムの予想は当たっていた。
 軽い突きにもかかわらず、吸血女が大きな動きで避けたのだ。
 その陰で重心を落として力が入れられる時間をギリギリ稼げた。
 これで万全の態勢で吸血女と戦えるとグレアムが思った時。

 グッオオオオオオオ

 背後から途轍もない雄叫びが聞こえた。
 俺の事を忘れるなと言っているようだった。
 グレアムがとっさに吸血女と巨躯男の両方に備えられるように半身になった。
 両眼で吸血女と巨躯男を捕らえられるようにした。
 左目が突進してくる巨躯男をとらえた瞬間、死を確信した。

 吸血女と巨躯男の二人を相手にして勝てるとは思えなかった。
 だが自分が死んでしまったら少女はもちろんオードリー嬢も生きていけない。
 どれほどの屈辱を受けようとも恥をかこうとも生き残らなければいけない。
 グレアムは再度吸血女の顔めがけて右手の剣を投げた。
 投げると同時に生き残っている護衛兵に向かって走った。
 護衛兵の中に入って乱戦にするためだった。

 グッオオオオオオオ
 ギャアアアアア
 ウワッワアアアアア

 巨躯男は一切躊躇しなかった。
 護衛兵ごとグレアムを吹き飛ばそうとした。
 全ての護衛兵が宙を舞い地に叩きつけられた。
 体当たりされた時にはもう護衛兵は絶命していた。
 だがグレアムは必死のステップで巨躯男の突進を躱し続けた。

 グレアムは必死だった。
 巨躯男だけでも絶対に勝てない強敵なのに、吸血女までいるのだ。
 しかも二敵の目が少女に向けられないようにしなければいけない。
 だから攻撃を避けて逃げられる方向が極端に狭められてしまっている。
 単に逃げるだけでは直ぐに追い詰められる。
 巨躯男が鱗に覆われていない目を狙って突きを繰り返す。
 吸血女が大切にしている顔に向けて突きを繰り返す。

 キャアアアアアアアア

 最悪の状況になってしまった。
 茫然自失していた少女が我を取り戻してしまったのだ。
 鱗に覆われた巨躯男が間近に迫るのを見て悲鳴をあげてしまった。
 腰を抜かした状態で後ろにずりさがって逃げようとしていた。
 その姿を見た吸血女がニンマリと残酷な笑みを浮かべている。

「この少女を庇っているのね。
 だったらこの少女を人質に取ってあげるわ」

 そう言うと即座に少女の方に走り寄って行った。
 グレアムは吸血女を阻みたかったが、巨躯男の突進を避けた直後で間に合わない。
 吸血女が少女をつかみ吊るし上げようとした時。

ヒッヒッヒィイイイイイン

 左前脚が折れてプラプラの状態のスタリオンが、三本の脚だけで突進して吸血女に体当たりをして少女を助けた。
 だがスタリオンは無事ではすまなかった。
 激怒した吸血女が爪を長く伸ばしてスタリオンを斬り裂いたのだ。
 それを見たグレアムは怒りに我を忘れてしまった。
しおりを挟む
感想 159

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

処理中です...