そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全

文字の大きさ
上 下
32 / 91
第一章

第32話:ルーパス、勇者、大魔王7

しおりを挟む
「くっくっくっくっ、よく分かっているな、ルーパス。
 余は別の門を開けて欲しいのだよ、別の異世界に通じる転移門をな。
 ああ、心配するな、別に人の住む異世界を侵略しようというのではない。
 知恵のある生き物の住まない異世界でいいのだ。
 不毛の異世界でいいのだよ、ルーパス。
 余は知恵のある生き物を喰らいたいわけではない。
 魔族が生きるために喰らいあう魔界を変えたいだけなのだよ
 ルーパスがそのような異世界への道を開いてくれたら、もうルーパスの世界に魔族が攻め込む必要もなくなるのだよ」

 ルーパスは半信半疑だった。
 もし大魔王の言っている事が本当ならば、自分達の世界は平和になる。
 だが大魔王の言っている事が嘘なら、自分は侵略者の手先になる。
 それこそ人間界を未曾有の危機に陥れた魔王のように。
 大魔王は新たな侵略を行う尖兵として、自分を魔王役にしようとしているのではないかとルーパスは考えたが、直ぐにそんな心配は必要ないと決断した。
 ミネルバを蘇らせるためなら魂も売ると決断したのだからと。

「分かった、魔力が溜まったら異世界の門を開こう。
 それだけでいいのか、それでいいのならもうオードリーを助けに行くぞ」

「ああ、早く助けに行ってやれ。
 今は愚かな男が仮死状態のオードリーを護っている。
 だが相手は若い男だからな。
 いつまで仮死状態のオードリーを黙ってみているだけで我慢できるか……」

 大魔王にそう言われたルーパスは内心慌てふためいていた。
 年頃になっているというオードリーが若い男と二人きりでいる。
 しかも仮死状態で眠り続けている状態でだ。
 もうルーパスはいてもたってもいられなくなった。
 後の条件など聞いていられる心境ではなくなっていた。
 大魔王に挨拶もせずに急いで人間界に転移していった。

「くっくっくっくっ、ルーパスに見捨てられたようだな、お前達。
 だが、これこそがお前達に相応しい終わり方であろう。
 だが心配するな、最後は役に立ててやるよ。
 魔族と人族の両方の役に立ててやる。
 お前達が生贄になる事で、死んでいったミネルバは蘇る。
 ルーパスは新たな転移門を開く。
 共喰いをするしかなかった魔族は新天地を得て人間界を襲わなくなる。
 全てお前達の尊い犠牲のお陰だ。
 くっくっくっくっ、今まで散々他人に犠牲を強いて利を得てきたんだ。
 最後くらいは他人のために自分が犠牲になるのだな」

「お許しください大魔王陛下」
「心を入れかえます、ですから命ばかりはお助け下さい」
「何でもします、大魔王陛下の為なら何でもします」

 魔界遠征軍の将兵は地に這い蹲って許しを請うた。
 額から血が噴き出すほど叩頭して命乞いをした。
 そんな中で勇者だけが大魔王と交渉しようとした。
しおりを挟む
感想 159

あなたにおすすめの小説

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

処理中です...