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第一章

第8話:臨死・オードリー視点

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 毒まで思いやりの欠片もないモノでした。
 喉を焼く激烈な痛みは、胃まで同じように焼け爛れさせます。
 ですがその痛みが、私の怒りと恨みを強くしてくれました。
 痛みと苦しみが強ければ強いほど、呪詛の効果も高まると信じます。
 痛みと苦しみを、恨み重なるモノたちを思い浮かべて叩きつけます。

 誰よりも私の想いを踏み躙った王太子のジェイムズ。
 幼い頃には好きだと言っていたのに、全て嘘だったのでしょう。
 モードに対する甘い言葉でよく分かりました。
 私にかけられていた言葉は、紙のように薄く軽かった。
 そして今なら分かります。
 公爵家の者共が私を自殺させようとしたのは、王家の命令だと。

 全てはデイヴィッド国王の命令だったのです。
 期待しているという言葉も優しい言葉も、今思えば空々しかった。
 最後にかけられた憎々し気な切り裂くような言葉。
 あれがデイヴィッド国王の本心だったのです。
 その横で同じように憎々しげな眼で私を見ていたギネビア王妃。
 王妃もずっと私を騙していたのです。

 もちろんフィアル公爵家の者共に対する恨みも大きいです。
 私を言葉で傷つけ自殺に追い込もうとした数々の振舞い。
 フィアル公爵アレグザンダー、この男も必ず呪詛で殺したい。
 侍女や女官に直接指示して殺そうとしたルイーズ夫人。
 あの女も絶対に呪詛で殺したい、殺してみせる。

 そして誰よりも憎いのは王太子を誑かしたモード。
 モードが王太子を誘惑しなければ、もしかしたら王太子は私を助けてくれたかも。
 いえ、そんな事はありえないですね。
 最後のあの態度を見れば絶対にあり得ない話です。
 二人そろって虐殺したい。
 痛みと恥の中で苦しみ抜いた死を与えたい。

 そしてアルバート。
 義理とはいえ弟の癖に私を襲おうとした破廉恥漢。
 あんな獣には獣に相応しい死を与えたい。
 徹底的に痛めつけられて苦しみ抜いた死を与えたい。
 肉親に襲われ心身がズタズタになるような殺され方がいい。

 隣にいる下女も許せない。
 毎日朝昼晩と私を傷つけ続けた心卑しい女。
 同じように四六時中苦しめばいい。
 苦しんで苦しんで苦しんで、自ら死を選ぶような目にあわせたい。

 でもそれはこの屋敷にいる全使用人が同じことです。
 一番近くで私を苦しめたのは隣の下女だけど、彼女だけが私を苦しめたわけじゃない、この屋敷にいる全ての使用人が私を虐め苦しめた。
 上はハウス・スチュワードやバトラーに始まり、下は雑役婦や下女まで。
 全員が寄ってたかって私を自殺させようとしていた。

 そのまま全てを憎み呪えればよかったのに。
 何故か死の直前におじさんの事を思い出してしまった。
 私の残飯を分けてくれて、優しい言葉をかけてくれた、王宮下働きのおじさんの事を思い出しながら意識がなくなったのです。
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