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第4話幽閉初日3
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「なんでしょうか、聖女様」
いい眼をした徒士がちゃんと返事をしてくれます。
「こら!
相手にするな!」
小人隊長が徒士を脅すように怒鳴り付けます。
ちょっと黙っていてもらいましょう。
塔には魔力を封じる魔法陣が幾重にも刻み込まれていますが、肉体による打撃までは封じられていません。
魔力とは違う、外気功による打撃を鎧の上から叩きつけてやりました。
「なにがお知りになりたいのですか、聖女様」
いい眼徒士が、まるで路傍の石を見るような眼で、だらしなく床にのびている隊長を見やってから、うやうやしく聞いてくれます。
まだ守護神様を信じ、聖女を敬ってくれる者はいるのですね。
安心しました。
「私がここに幽閉されている間、誰が守護神様に祈りを捧げているのですか?」
「聖女様の妹、リドス公爵家令嬢のカミラ様です」
私はその場に倒れてしまうほどの衝撃を受けました。
カミラは何度も色情狂と不義密通を重ねています。
乙女ではありません。
そんな人間が祈りを捧げても、神との契約は履行されません。
このままでは守護神の加護を失ってしまいます!
「それでは守護神様の加護を失ってしまいます!
家の恥を口にするのは情けないですが、カミラは乙女ではありません。
急ぎ国王陛下に知らせしてください!」
「残念ですが、私には謁見資格がありません。
ここにおられる騎士様達は、隊長や王太子殿下に逆らって注進するような方ではありません」
いい眼徒士がチラリと二人の騎士に眼をやりましたが、二人とも露骨に眼を背けてしまいます。
情けない事に、わが身大事の事なかれ主義のようです。
本当にこの国は腐っていたのですね。
「私が言葉をかけられる騎士や騎士長の方で、腹の座った方はただの一人もおられませんので、残念ながら聖女様のお言葉に従う事はできません」
いい眼徒士は全てを諦め、達観したような眼をしています。
ですが、私は諦められません。
ここで諦めたら、十万の民が殺されるか奴隷にされるか放浪民になるかです。
それを黙ってみている訳にはいかないのです。
「まだ今なら間に合うのです。
本当に誰もいないのですか?
貴男から見て、心映えの好さそうな方は一人もおられないのですか?
命を賭けてもいい王族は一人もおられないというのですか?!」
「はい、ただの一人もおられません。
ここで逆らえば、直ぐに冤罪で家族もろとも殺されてしまうでしょう。
私には、誇りよりも大切な家族がいるのです。
ここでなすすべもなく殺されるよりは、神の守護が失われた混乱の世を、剣一本で切り抜ける方が、家族を護れる可能性が高いのです」
いい眼をした徒士がちゃんと返事をしてくれます。
「こら!
相手にするな!」
小人隊長が徒士を脅すように怒鳴り付けます。
ちょっと黙っていてもらいましょう。
塔には魔力を封じる魔法陣が幾重にも刻み込まれていますが、肉体による打撃までは封じられていません。
魔力とは違う、外気功による打撃を鎧の上から叩きつけてやりました。
「なにがお知りになりたいのですか、聖女様」
いい眼徒士が、まるで路傍の石を見るような眼で、だらしなく床にのびている隊長を見やってから、うやうやしく聞いてくれます。
まだ守護神様を信じ、聖女を敬ってくれる者はいるのですね。
安心しました。
「私がここに幽閉されている間、誰が守護神様に祈りを捧げているのですか?」
「聖女様の妹、リドス公爵家令嬢のカミラ様です」
私はその場に倒れてしまうほどの衝撃を受けました。
カミラは何度も色情狂と不義密通を重ねています。
乙女ではありません。
そんな人間が祈りを捧げても、神との契約は履行されません。
このままでは守護神の加護を失ってしまいます!
「それでは守護神様の加護を失ってしまいます!
家の恥を口にするのは情けないですが、カミラは乙女ではありません。
急ぎ国王陛下に知らせしてください!」
「残念ですが、私には謁見資格がありません。
ここにおられる騎士様達は、隊長や王太子殿下に逆らって注進するような方ではありません」
いい眼徒士がチラリと二人の騎士に眼をやりましたが、二人とも露骨に眼を背けてしまいます。
情けない事に、わが身大事の事なかれ主義のようです。
本当にこの国は腐っていたのですね。
「私が言葉をかけられる騎士や騎士長の方で、腹の座った方はただの一人もおられませんので、残念ながら聖女様のお言葉に従う事はできません」
いい眼徒士は全てを諦め、達観したような眼をしています。
ですが、私は諦められません。
ここで諦めたら、十万の民が殺されるか奴隷にされるか放浪民になるかです。
それを黙ってみている訳にはいかないのです。
「まだ今なら間に合うのです。
本当に誰もいないのですか?
貴男から見て、心映えの好さそうな方は一人もおられないのですか?
命を賭けてもいい王族は一人もおられないというのですか?!」
「はい、ただの一人もおられません。
ここで逆らえば、直ぐに冤罪で家族もろとも殺されてしまうでしょう。
私には、誇りよりも大切な家族がいるのです。
ここでなすすべもなく殺されるよりは、神の守護が失われた混乱の世を、剣一本で切り抜ける方が、家族を護れる可能性が高いのです」
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