妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全

文字の大きさ
上 下
18 / 26

17話

しおりを挟む
「ここまで準備が整ったら、次の段階に行ってもいいだろう。
 このままでは魔族が滅んでしまうからね。
 他の魔族が生き残っていないか、大陸を超えて探さないとね」

 アルフレット様がそう口になされたのは、大城塞都市を造り始めて一年と少し経った頃でした。
 私は幸せな時間が終わる恐怖に囚われました。
 またアルフレット様に捨てられるかもしれないと思ってしまったのです。

 本当は捨てられたわけではないと分かっています。
 一人前になれば、親離れしなければいけないのは分かっています。
 でも無理なのです。
 分かっていても親離れしたくないのです。
 ずっとずっと側にいたいのです。
 できる事なら、妻にして欲しいのです。
 
 無理なのは百も承知です。
 単なる願望です。
 絶対にかなう事のない願望です。
 魔族の王族に連なるアルフレット様が、人間を妻にするわけがないのです。
 まして魔族が滅びるか滅びないかの重大な時期です。
 人間との間に混血児を作るよりも、アスキス家の女との間に、できるだけ数多くの子供を作らないといけないのです。

 その事は、アスキス家の人達も理解しています。
 段々魔族が減り、血が濃くなりすぎる危険をしりつつ、恐怖と戦いながら子孫を残したのが、今のアスキス家です。
 ハリーという従兄に、アメリアとエミリーの姉妹が妻となっているのです。
 それ以前からとても濃い血の婚姻を繰り返しているのです。 
 アルフレット様との間に子供を作ろうと考えるのが自然な流れです。

「私も連れて行ってください。
 もうアルフレット様と離れ離れになるのは嫌です。
 絶対に嫌です。
 必ずお役にたって見せます」

 私にとって、アスキス家の事など、正直どうでもいいのです。
 アルフレット様への想いと恩があったから助けたのです。
 アルフレット様本人と再会できたら、もうアスキス家には興味もありません。
 魔族の復活というアルフレット様の願いがありますから、必要な支援は惜しみませんが、アルフレット様と離れ離れになってまで助ける気はありません。
 やはり私は人間です。
 身勝手で強欲な人間なのです。

「分かったよ。
 もう独り立ちしなさいとは言わないよ。
 だけどそれではアスキス家の防備が心配かな?
 もう少し紙兵を増やしておいた方がいいかな?」

「分かりました。
 魔獣をたくさん狩ります。
 獣皮紙を作って、それで紙兵を創りましょう。
 それで大丈夫ではないですか?」

 私はアルフレット様に提案しました。
 今の生活がとても幸せなのに間違いはありません。
 ですが、アスキス家の人達と一緒です。
 身勝手で強欲な私は、前世の幼い頃のように、アルフレット様との二人っきりの生活を渇望していたのです。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?

久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ? ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

処理中です...