妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全

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13話

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「お養父さん!
 私よ、お養父さん!
 起きて!
 起きてください、お養父さん!」

 魔力を惜しまず、全力を尽くして仕掛けられた罠を突破しました。
 地底奥深くにある、魔族の隠れ家にたどりつくために。
 ダンジョンというべきか、洞窟というべきかは別にして、地下奥深くにある隠れ家に向かう通路ですが、数多くの魔獣の住処になっていました。

 その魔獣達も、私の強さを感じて逃げようとしましたが、地下通路ゆえに逃げられず、私に襲いかかってきました。
 無用な殺生は好みませんが、襲われたら戦わないわけにはいきません。
 それに、アスキス家のための素材が必要です。
 新たな魔術書や魔術巻物を製作する必要があります。

 ようやくたどり着いた魔族の隠れ家には、私には理解できないような、とても複雑な魔法陣に護られた、魔族が深く眠っていました。
 その人は私のとてもよく知っている人でした!
 誰あろう、私を救い育ててくれた、養父だったのです!
 魔族の王族に生まれたにもかかわらず、王家をでて冒険者になった変わり者。
 虐げられ死にかけていた人間を養い育ててくれた私の養父、アルフレット・フォン・ペンブルックその人だったのです。

 私は我を忘れてしまいました。
 事前に計画していた事など全て吹き飛んでしまいました。
 リリーを連れてきている事も、側にいる事も、完全に忘れていました。
 幼子の頃に戻って、泣き喚いてしまっていました。
 養父に起きてもらいたい一心だけでした。

「あの、ペンブルック様。
 お知り合いの方ですか?」

 私は我に帰りました。
 リリーに話しかけられて、今の現状を思い出しました。
 愕然としてしまいました。
 今の姿では、養父に私だと思いだしてもらえません。
 この姿に、自分が育てた人間の魂が宿っているなど、とても信じてもらえるとは思えません。

 ですが、知ってもらいたいのです。
 一人前になったと別れを告げられ、それ以来会う事が叶わなかった養父に。
 お陰様で、幸せに暮らすことができたと。
 冒険者にもかかわらず天寿を全うして、幸せに暮らせたと。
 ずっと、ずっと、もう一度会いたいと思っていたと。
 心からお礼を言いたいと思っていたと!

「リリー、お願い!
 手伝って欲しいの。
 ここに寝ておられるのは、私の養い親なの。
 どうしてももう一度話したいの。
 助けてくださった事に、お礼が言いたいの。
 私では起きてもらえそうにないの。
 だから手伝って」

「分かりました。
 ペンブルック様は私達家族の命の恩人です。
 どんなんことでもさせていただきます。
 私はなにをすればいいですか?」
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