上 下
11 / 26

10話

しおりを挟む
「次にアメリアさんに試してもらいます」

「はい、頑張ります」

 次はリリーの母親アメリアが試す番です。
 魔族が次々と人に狩られ、逃げ込んだ魔境では魔獣に喰われ、瞬く間に数が減り、代を重ねるごとに残された者で結婚を繰り返したので、今では妹と夫を共有しなければいけなくなっています。

「これは土魔法の魔術書です。
 少々強力な魔術書です。
 もっと弱い土魔法もあるのですが、ここで家族を護るとなると、この魔術書が使えないと厳しくなります。
 誰が使えてもいいのですが、まずはアメリアさんに試してもらいます」

「……はい、試させてもらいます」

 少し楽しげだったアメリアさんの顔が引き締まりました。
 今迄のような、生活を豊かに便利にする魔術ではなく、家族の命を護る魔法だと分かって、気が引き締まったのでしょう。

「この魔法は、魔獣や人間に襲われた時に岩盤の壁を創り出す魔法です。
 この洞窟の中で使えば、敵を押し止めることができます。
 元々の土壁や岩壁よりも強固ですから、これを破れるモノは竜くらいです。
 皆はこちらに移動してください。
 アメリアさん、ここを狙って呪文を心の中で唱えてください」
 
「うわああああ!」

 アメリアさんも驚き慌てています。
 それもそうでしょう
 分かっていても、目の前に厚く硬い岩盤が現れるのです。
 生れてから一度も魔術を見たことのない魔族なら、驚いて当然です。
 いえ、いえ、違いました。
 火種と光と水の初級下の魔法は直前に見ていましたね。
 でもその三つの魔術とは桁が三つ四つ違う魔法ですからね。

「さて、このままでは皆さんの出入りができないですから、私が扉を創ります。
 扉作りのような特殊な魔法は、普段必要になる事がありませんから、魔術書がありませんからね」

 私は洞窟の入り口二十メートル付近に出来た、厚さ三十センチの岩盤に扉を創り、同じく強固な岩盤製の閂を五ケ所にもうけました。
 これで扉を突破される心配はないでしょう。

「うん?
 どうかしましたか?
 普段はこの奥の部屋で寝るようにされたら、魔獣や人間に奇襲されることはないでしょう」

 アスキス家の人達が唖然呆然としています。
 これくらいで驚いてもらっては困ります。
 これからもっと色々やってもらうことになるのです。
 これくらい序の口なのですから。

「はい、はい、はい。
 現実に戻って来てくださいね。
 次はエミリーさんの番ですよ。
 次も家族を護るための大切な魔術ですからね。
 それに、生活も豊かに便利になりますからね。
 気合を入れてください」

「はい、頑張ります」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。

青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。 婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。 王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

正当な権利ですので。

しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。  18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。 2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。 遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。 再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。

戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?

新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。

処理中です...