妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全

文字の大きさ
上 下
9 / 26

8話

しおりを挟む
「最初にこの魔術巻物を見てください。
 この魔法陣がどういう意味なのか分かりますか?」

 私は最初に初級下の火炎魔法の魔術巻物をアスキス家の人達に見せました。
 誰もその意味が理解できませんでした。
 長年の逃亡と隠棲の生活で、口伝の詠唱以外失ってしまったのだそうです。
 その詠唱も、所々発音も言葉も間違っています。
 これでは唱えても魔術は発現しません。
 ですが彼らには魔法を発現させて確かめることができないので、間違っている事も確認できないのです。

「では順番に心のなかで私の教えた呪文を唱えてください。
 それでも発現しなかったら、実際に言葉にしてみてください」

 私の指示通り、家族で順番に魔術巻物に手を置いて、確かめてくれました。
 無詠唱と詠唱有で確かめてもらいました。
 でも家族の誰も魔術を発現させることができませんでした。
 詠唱に間違いがない事は、この耳で確かめています。
 魔族なのに魔力がないのは確かです。
 でもこの世界に魔力が戻っているのは、私が魔術を使えているので間違いありませんから、次の実験に移ることにしました。
 
「次はこの魔術書を使って同じことをしてもらいます。
 狙いはさっきと同じで薪です」

 何故最初に初級下の火炎魔法を選んだかと言えば、薪に火をつけるためです。
 凄く寒いわけではありませんが、料理をするにも火は必要です。
 今は私がいるので扉を開けていますが、私が家に戻るなら、魔獣に襲われないように、厳重に扉をしめないといけません。
 そうなると横穴洞窟は真っ黒になってしまいます。
 私が強引に入り込んだ時のように。

 長期間の窮乏生活で、火を熾す薪すら不足していたようです。
 今は私が魔法袋に入れていた薪を大量に差し上げたので、常時焚火をすることが可能です。
 今のアスキス家の人達の体調では、水も食材も、火を通した方がいいです。
 それくらい体が弱っています。

「うわ!
 火だ!
 火がでた!」

 アスキス家の祖父、ジョージが年甲斐もなく騒いでいます。
 ですがそれも仕方がないのかもしれません。
 生れて数百年、初めて自分で魔術を発現させたのです。
 驚き慌てるのが普通ですね。
 でもこれで確認できました。

 魔力を蓄えた魔晶石を装備した魔術書を使えば、魔族は魔術を発現できます。
 ではそれが全ての魔族に当てはまるかです。
 一家族十四人では被験者数が少なすぎますが、今は仕方ありません。
 これから魔族を探して実験を重ねていくだけです。
 いつか、人間でも実験しなければいけないでしょう。
 人間に生まれた私が魔術を使えるのですから、人間も使える可能性が高いです。
 ですが、その検証相手は慎重に選ばなければいけません!
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?

久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ? ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

処理中です...