妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全

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5話

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「こんなにたくさん食べていいのですか?」

「大丈夫、大丈夫。
 芋でよければたくさんあるから」

「美味しい!
 家族にも食べさてあげたい……」

 私はこの言葉に乗りました。
 絶好の機会です。
 この子の純真さと油断に付け込むようですが、しかたありません。
 話から推測するに、この子の家族は飢えています。
 私の大恩人、魔族が飢えているのです。
 助けないでどうするのですか!

「じゃあ、持って帰る?
 でも貴女じゃたくさん持てないわよね?
 何なら私が持って行ってあげるよ?」

「え?
 いいんですか?!
 助けていただいたばかりか、大切な食糧を分けてもらえるのですか?」

「もちろんよ。
 昔魔族の人に凄くお世話になったことがあるのよ。
 もう遥か昔の話んだけどね。
 ろくにお礼もできずに離れ離れになっちゃったから、せめて他の魔族の方に恩返ししたかったのよ」

「え?!
 私達の他にも魔族が生き残っているのですか?!
 どこですか?!
 どこにおられるのですか?!」

「ごめんね。
 それは分からないのよ。
 私は魔術で長く眠っていたから、何百年何千年も前の話かも分からないのよ」

「そんなに長く眠る魔法があるのですか?!」

「うん、あるよ。
 冬眠の魔法だけでど、一冬どころか何千年も眠れるよ。
 もっとも、よほど安全な隠れ家がないと危なすぎるけどね」

「そうなのですか。
 そうですよね。
 他の魔族の方が直ぐに見つかるはずないですよね……」

「そんなに気を落とさないでよ。
 これからは私も真剣に探すから。
 正直眠り過ぎてしまって、今の状況に驚いているのよ。
 魔族の人々は滅んだと聞いていたから、探すこと自体諦めていたのよ。
 でも貴女に会えたから、真剣に探すわ」

 純真無垢な幼い魔族の子に、嘘をつくのは胸が痛みます。
 人間相手なら、どれほど策謀を巡らせても平気ですが、これは辛いです。
 でも、騙しきらないといけません。
 信用信頼してもらって、魔族の家を探し出さないと、恩の一部も返せません。

「お願いします。
 魔族を探してください。
 私たち家族だけでは、魔族が滅んでしまいます。
 次代を繋ぐには、家族以外の人が必要だと、父も母も言っていました」

「分かったわ。
 安心してちょうだい。
 できる限り手伝わせてもらうわ。
 それで、今更なんだけど、貴女の名前を教えてくれるかしら?
 ああ、ごめんね。
 私が名乗っていなかったわね。
 私はカチュアよ。
 人間の家は捨てたから、家名はないの。
 あえて名乗るなら、私を助けてくれた魔族のペンブルックね。
 カチュア・ペンブルックよ」

「カチュア・ペンブルックさんですね。
 私はリリーと言います。
 アスキス家のリリーです」
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