妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全

文字の大きさ
上 下
6 / 26

5話

しおりを挟む
「こんなにたくさん食べていいのですか?」

「大丈夫、大丈夫。
 芋でよければたくさんあるから」

「美味しい!
 家族にも食べさてあげたい……」

 私はこの言葉に乗りました。
 絶好の機会です。
 この子の純真さと油断に付け込むようですが、しかたありません。
 話から推測するに、この子の家族は飢えています。
 私の大恩人、魔族が飢えているのです。
 助けないでどうするのですか!

「じゃあ、持って帰る?
 でも貴女じゃたくさん持てないわよね?
 何なら私が持って行ってあげるよ?」

「え?
 いいんですか?!
 助けていただいたばかりか、大切な食糧を分けてもらえるのですか?」

「もちろんよ。
 昔魔族の人に凄くお世話になったことがあるのよ。
 もう遥か昔の話んだけどね。
 ろくにお礼もできずに離れ離れになっちゃったから、せめて他の魔族の方に恩返ししたかったのよ」

「え?!
 私達の他にも魔族が生き残っているのですか?!
 どこですか?!
 どこにおられるのですか?!」

「ごめんね。
 それは分からないのよ。
 私は魔術で長く眠っていたから、何百年何千年も前の話かも分からないのよ」

「そんなに長く眠る魔法があるのですか?!」

「うん、あるよ。
 冬眠の魔法だけでど、一冬どころか何千年も眠れるよ。
 もっとも、よほど安全な隠れ家がないと危なすぎるけどね」

「そうなのですか。
 そうですよね。
 他の魔族の方が直ぐに見つかるはずないですよね……」

「そんなに気を落とさないでよ。
 これからは私も真剣に探すから。
 正直眠り過ぎてしまって、今の状況に驚いているのよ。
 魔族の人々は滅んだと聞いていたから、探すこと自体諦めていたのよ。
 でも貴女に会えたから、真剣に探すわ」

 純真無垢な幼い魔族の子に、嘘をつくのは胸が痛みます。
 人間相手なら、どれほど策謀を巡らせても平気ですが、これは辛いです。
 でも、騙しきらないといけません。
 信用信頼してもらって、魔族の家を探し出さないと、恩の一部も返せません。

「お願いします。
 魔族を探してください。
 私たち家族だけでは、魔族が滅んでしまいます。
 次代を繋ぐには、家族以外の人が必要だと、父も母も言っていました」

「分かったわ。
 安心してちょうだい。
 できる限り手伝わせてもらうわ。
 それで、今更なんだけど、貴女の名前を教えてくれるかしら?
 ああ、ごめんね。
 私が名乗っていなかったわね。
 私はカチュアよ。
 人間の家は捨てたから、家名はないの。
 あえて名乗るなら、私を助けてくれた魔族のペンブルックね。
 カチュア・ペンブルックよ」

「カチュア・ペンブルックさんですね。
 私はリリーと言います。
 アスキス家のリリーです」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?

久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ? ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

処理中です...