妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全

文字の大きさ
上 下
5 / 26

4話

しおりを挟む
「キャアアアァアアア!」

「ああ、ごめんごめん。
 直ぐに変えるから」

 私は最初なぜ魔族の子供が悲鳴をあげているのか、意味が分からなかった。
 とりあえず、後ろに下がって怖がらせないようにした。
 でも、魔族の子供の視線が私の顔に釘付けになっているので、原因が分かった。
 私の顔が怖かったのだ。
 王太子に斬られ、醜く歪んだ顔が怖いのだ。
 私は慌てて変身魔術を使って顔を変えた。

 魔族の子から怯えの表情が消えた。
 これで私は確信した。
 この世界にまだ魔術が残されている事を。
 魔族の子供が魔術に慣れてることを。

「もう何も心配しなくていいからね。
 これを飲みなさい。
 体が温まりますよ」

「ありがとうございます」

 魔族の子供がちゃんとお礼を言います。
 人間に対してもお礼が言えるのです。
 魔族は今も心優しいままです。
 その事実にうれしくなってしまいました。

 魔族は種族の性質自体が優しく思いやりがあります。
 人間の欲深く残虐な性質とは全く違います。
 心優し過ぎる魔族は、よく人間に騙され奴隷のように扱われていました。
 それでも、争いを好まない魔族は人間との戦いを避けていました。
 膨大な魔力と強力な魔術を使えば、何時でも人間など滅ぼせたのにです。

 魔族はその魔力と魔術で、人間から身を護っていました。
 どれほど人間が強欲でずる賢くても、魔族を滅ぼすことなど不可能だったのです。
 魔力と魔術さえあれば。
 ですが、今この世界は魔術が失われています。
 魔族に人間から身を守る術はないのです。
 いえ、ないと思っていました。

 ですが、少なくとも、目の前の魔族の子は、魔術を知っています。
 魔力の量や魔術の破壊力は分かりませんが、魔族が生き残っていたのです。
 捨て子で残虐な大人達から虐待されていた私を、救い養い子として育ててくれた魔族が、滅びていなかったのです。
 何をおいても救わなければいけません!

 ですが慌ててはいけません。
 いきなり魔族の集落が知りたいなどどいったら、この子に警戒されてしまいます。
 まずは信用信頼されなければいけません。
 そのためには、私には魔族に対する悪意がない事を証明しなければいけません。

「少しは温まった?
 何か食べたいモノはある?
 果物ならたいがいのモノはあるわ。
 米や麦がないから、ごはんやパンはないの。
 芋は色々あるから、焼き芋やふかし芋は作ってあげられるわよ」

「……あの、焼き芋が食べたいです。
 何のお礼もできませんが、お手伝いして返させてもらいます」

 ああ、本当に何も変わらない。
 魔族の優しさと恩義に対する報いる心は変わっていません。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?

久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ? ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

処理中です...